新人魔女の初体験(8)
「あ~、はい。そうですね……」
リッカは渋々といった様子で魔法陣の前に立つ。そして、魔法陣へ魔力を流した。すると、淡い光を放ちながら魔法陣が起動する。
「大丈夫だと思います」
リッカの言葉にリゼは一つ頷くと、続いて指示を出す。
「では、向こうへ行ってみてくれ」
「……はい」
リゼの当然の指示にリッカは声を固くする。それも当然だろう。もし万が一魔法陣が失敗していたら……。リッカはぎゅっと拳を握ると、魔法陣へ一歩近づいた。緊張で体の動きがぎこちない。
(大丈夫! きっと上手くいくはず!!)
リゼとエルナが見守る中、リッカはエイッと魔法陣に向かって手を前に押し出した。手は壁の反発を感じず、スッと吸い込まれた。
「あ……」
あまりの抵抗の無さにリッカは気の抜けた声を漏らす。抵抗がないと言うことは、どこか別空間と繋がっているということだ。まずは第一段階をクリアしたことになる。リッカは小さく安堵の息を吐く。後は作業場へ繋がっていれば成功である。
「では、行ってきます」
リッカは慎重に、ゆっくりと壁の中へ手を進め、そのまま一歩を踏み出した。そして二歩目……三歩目……。魔法陣が作り出した転異空間をしばらく歩くと、やがてリッカの作業場へ繋がった。
「成功だ……」
リッカはポツリと呟く。振り返ると転移空間は綺麗に消えており、魔法陣を付した作業場の壁があるばかりだった。魔法陣は通り抜けが完了した時点で起動を終えるようだ。リッカは魔法陣に手を翳し魔力を流し込むと、再度転移空間を開ける。今度は転移空間内を駆け、エルナの私室へ戻ってきた。
「大丈夫ですっ! 問題なく向こう側と繋がりました!」
リッカは笑顔でリゼに報告する。リゼはエルナと顔を見合わせて笑みを見せる。そして、リッカへ向き直るとフンと鼻を鳴らした。
「当然だ。私が魔法陣を描いたのだからな」
リッカとエルナはそんなリゼの態度に顔を見合わせてクスクスと笑う。リゼは二人の笑い声につられたのか、珍しく照れたような表情を浮かべた。リゼも内心では成功するか心配だったのだろう。転移魔法陣の設置は、国一番の大賢者であっても緊張するほど大変なものなのだ。
三人は転移魔法陣の成功にしばしの間喜び合っていたが、ふとリゼは思い出したかのようにリッカへ顔を向けた。
「そう言えば、君にはまだやってもらうことがあった」
「何ですか?」
「魔石に君の魔力を充填してくれ。魔力の無いエルナさん用の魔法陣起動キーだ」