新人魔女と憧れのあの人(8)
ミーナの言葉に、ジャックスは反論しようと口を開きかけるが、すぐに閉じた。そして、大きな手で自分の頭をガシガシと掻くと、どこか観念したように口を開く。
「まぁ……そうだな。……悪くはない……な」
「でしょう?」
ジャックスの反応を見たミーナは満足そうに笑う。二人の会話にはリッカを案じる以外の何かが含まれているような気がしたが、とりあえず話題が丸く収まったのでリッカはホッとした。
その後、ジャックスは店に来た馴染客の誘いにのり、出掛けることになった。ミーナも店を閉める時間だからと席を立ったので、リッカも帰ろうと店先へ出た。
「じゃあ、ミーナさん、今日はありがとうございました。また買取をお願いしてもいいですか?」
「えぇ。いつでも来て。待ってるわ」
手を振るミーナにリッカも手を振り返すと、踵を返した。
リッカは再び街へと繰り出した。日が暮れ始めた街は、昼間よりも賑わいを見せている。はぐれてしまわないように、足下をトテトテと歩くフェンを抱き上げる。
すると、店では静かにしていたフェンが、不満そうにリッカを見上げた。
「リッカ様。あの人間の男は、なぜリッカ様がお強いことを咎めたのですか?」
フェンの問いかけが、先程のやりとりについてだと気がついたリッカは、苦笑しながら答えた。
「う〜ん。別に咎めているわけではないと思うのよ。……ただ、大人の男の人の中には、わたしのような女の子は、街や家を守りつつ仕事をする方が良いって考える人もいるの。体力的にも、男と女には差があるから……ね」
「そんなっ! リッカ様は、僕が知る限りとてもお強い方です!! それなのに……」
フェンは納得いかない様子で尻尾を揺らす。そんなフェンの様子を見て、リッカは困ったように眉根を寄せながら笑みを見せた。
使い魔であるフェンにとって、性別など大した問題ではないのかもしれない。
しかし、人間社会の中で生きるリッカは、なかなかそうもいかない。自分が女性である以上、いつかは結婚をして家庭に入る。それを母が、何より父が強く望んでいることをリッカは知っていた。
だがリッカ自身は、『魔女様』のようになりたいと、ただそれだけを願っている。それがどんなに難しいことか分かっている。それでも諦めたくなくて、日々研鑽を積んでいるのだ。だが、周囲から認められるには、まだまだ力が足りない。
リッカは小さく息をつく。
夕焼けに染まる街並みの中、肩を落としたリッカの影が長く伸びた。