新人魔女の初体験(7)
リッカは歩きながら話を切り出した。
「お姉様のお部屋が良いのではないかと思うのですが……。実はまだお姉様には今日の予定をお話していなくて……」
「やはりそうか。君が本日の予定を伝えそびれてしまうのではないかと思い、エルナさんにフクロウを遣わせておいて正解だったな」
リッカは恨めしそうに、隣を歩くリゼを見上げた。どうやら見透かされていたらしい。
「そう思っていたのなら、最初からそのようにすると言えばいいのに」
リッカは唇を尖らせて小さく抗議する。
「言ったら君はもっとのんびりとしていたのではないか?」
「う……それは……」
リッカは肩を落とした。そんなリッカを見て、リゼがふんと鼻を鳴らす。結局、師には全てお見通しのようだ。
リッカとの会話をひと段落させたリゼは、静かに半歩後ろを歩くエルナに声をかける。
「それでエルナさん。手紙にも書いた通り、本日は工房とこの屋敷を繋ぐ転移魔法陣を設置するために来たのですが、彼女が言うように、エルナさんの私室へ設置しても宜しいでしょうか?」
「はい。問題ありませんわ」
リゼの言葉に、エルナはニコリと笑みを浮かべて答えた。その顔をリゼは信じられないとばかりに凝視する。そんな反応にエルナは不思議そうに小首を傾げた。
「何か?」
「あ、いや……。問題ないと即答されたので驚いているのです。……その……私室ですよ? 私が入ってもよろしいのですか?」
リゼはそう言って苦笑いを浮かべた。エルナはその返答に更に首を捻る。
「ええ。構いませんよ。リッカさんもご一緒なのでしょう? でしたら、何の問題もございません」
「え、いや……まぁそうか……」
エルナの返答にますます困惑顔のリゼ。そんな師の様子にリッカは声を押し殺しながら笑っていた。
そんなやり取りをしている間に目的地であるエルナの部屋へと到着した。
三人は室内へ入ると早速作業を開始する。と言っても、昨日リッカとリゼがほとんどの作業を終わらせていたので、本日行うことは魔法陣の設置と使用方法の確認くらいである。設置場所は、リッカの作業場同様扉の隣となった。作業自体はすぐに終わり、後は実際に魔法陣が作動するかの確認だけだ。
「それでは、起動してみよう」
言葉と共にリゼの視線はリッカへと注がれる。
「え……わたし?」
突然のご指名に戸惑うリッカ。しかし、その反応は予想済みだったのか、リゼがため息を吐いた。
「君以外誰がいる。これを使うのは君とエルナさんなのだぞ」