新人魔女の初体験(6)
リッカが支度を終えて玄関ホールへ降りると、ちょうど来客を知らせるベルが鳴らされた。どうやら約束の時間のようだ。
既にホールに待機していた母はどこか落ち着かない様子である。隣に並ぶリゼの婚約者であるエルナよりも、母の方が余程リゼとの対面を心待ちにしているように感じる。リッカはそんな母の様子に苦笑を漏らした。
リゼは、短く刈り上げた土色の髪に合わせたマントを翻しやって来た。その姿を見た母の頬は見事に緩む。
「ごきげんよう。スヴァルト家の皆様。本日は急な訪問をお許しください」
「ようこそ、お越しくださいました、リゼラルブ様。急だなんてとんでもございませんわ。エルナにご連絡を頂いておりましたので、あちらにお茶の準備をさせてありますの。さ、どうぞ」
ロレーヌは、娘たちのことなどそっちのけでリゼに笑顔をふりまく。どうやら、とてもリゼと話がしたいようだ。そんな母の様子を呆れた様子で見ていたリッカに、リゼがちらりと視線を寄越した。
(母をなんとかしろということだろうか?)
リゼの視線の意味をそう解釈したリッカは、ため息を一つ吐いてからロレーヌに声をかけた。
「お母様、お茶はあとにして頂いても宜しいですか? リゼさんは今日、用事があって来ているのです。その用事を先に済ませませんと」
リッカの言葉で、自身が浮かれていたことに気がついたのか、母ロレーヌは慌てた様子で視線を彷徨わせた。
「あら? まぁ、私としたことが。……そうですわね」
「申し訳ありません。ロレーヌ様。急ぎの用が終わりましたら、ゆっくりとお茶を頂きたく思います」
いつもの仏頂面など微塵も感じさせず、心底申し訳なさそうに謝るリゼの姿にリッカは笑いを噛み殺す。しかし、普段のリゼを知らないロレーヌは、そんなリゼの態度に感激したように頬を赤らめた。
「まぁ、お気になさらないで下さいませ! ささっ、リッカ。リゼラルブ様をご案内して差し上げて。終わったら、サロンへいらっしゃい」
「はい、お母様」
母に促されるまま、リッカはリゼとエルナを伴ってその場を後にした。一人騒がしかった母から離れ、リッカは安堵の息を吐いた。
「まったくお母様ったら……。騒がしくして申し訳ありませんでした」
「まあ、構わない」
ロレーヌと離れた途端にリゼは相変わらずの仏頂面となっていたが、リッカにはリゼが少なからず母に対して悪い印象を抱いていないように感じた。
「ところで、アレの取り付け場所なんですが……」