新人魔女の初体験(3)
名案を閃いたとばかりに顔を綻ばせるリッカをリゼが面倒くさい者を見る目で見つめる。リゼのそんな様子に、リッカは気が付かない様子で更に言葉を続けた。
「雪を降らせる魔法はわたしが作動させるとして、それ以外の設備管理、例えばこうして発芽が観測出来たときに、保冷庫の設置をセバンたちだけでできる形が望ましいと思うんです」
「観測出来たときに設置? つまり、可動式の保冷庫を作るのか?」
リッカの言葉にリゼが首を傾げる。そんな様子のリゼに、リッカは嬉しそうに首を縦にふった。
「やってみないと分かりませんが、何もがっちりした保冷庫である必要はないのではないかと。野生しているものは常に吹きっさらしなわけですし。だから、テントなんてどうですかね? 天幕一枚でそれなりに保冷庫の役割を果たすことが出来ると思うんです。不要なときは畳んでしまえば良いわけですし」
リッカはそう言うと、手を広げ天幕を表現してみせる。リゼはそんなリッカの様子を冷めた目で見つめると、大きくため息を吐いた。
「それで? 仮にテントで氷精花を囲ったとして風の件はどうする? まさか、隙間風で大丈夫とでも言うのか?」
リッカは、まさかと首を横に振る。
「テントが設置された際の保冷庫内の風を担うのはアレです」
リッカはそう言うと、少し離れた位置にある遊具を指さした。リゼはその指の先をたどるように視線を動かす。リゼが視線を送った先にあるものはブランコであった。
「アレをどうすると?」
「今も一体のセバンが遊んでいますが、あの振り子運動を使います」
リゼは短くため息を吐く。
「よもやアレが起こす風を保冷庫内へ引き込むとでも?」
「まぁ、それでもいいのですけど。シーソーの先に取り付けたような板をテントの梁に付けるんです。それとブランコを繋げば、セバンがブランコを漕ぐ毎に保冷庫内で風を起こすことができます」
リッカがそう言うと、リゼは呆れた様子でため息を吐いた。
「君のその突飛な考えは、いったいどこから湧き出ているのだ?」
「突飛と言われましても……」
リッカは困ったように頬を掻く。
「要は氷精花を冷やしつつ、風が循環すれば良いんですから、この方法でいけるような気がするのですが」
リッカの回答に、リゼは再びため息を吐いた。そして少し間を置いてから口を開く。
「ああ……もういい。もとは君の実験なのだ。それでやればいい。流石に私も疲れているから、早く休みたい。君の思うように改装してやる」