新人魔女の初体験(1)
新人魔女のリッカは眠い目を擦りながら、寝ぼけた頭で考える。
(いつ帰って来たんだっけ?)
窓から差し込む明るい日差しが、徐々にリッカの寝ぼけた頭を覚醒させていく。そしてリッカは、昨夜遅くまで作業場でおこなっていたことを思い出す。
(そうだ! 氷精花の発芽が観測できたから、あの後リゼさんと夜中まで保冷庫の設置をしていたんだった)
昨日の行動を一つ一つ思い返す。
リゼと転移魔法陣の改良を終えた後、リッカは魔法陣の設置をリゼに任せ、自分はセバンたちの仕事の進捗を確認した。問題がなければそれで仕事は終わりのはずだったが、セバンたちにより氷精花の発芽を知らされたのだ。
慌てたリッカは、リゼに報告しようと振り返る。丁度、リゼの手からは金色に光る魔力の筋が放出され、転移魔法陣が描かれ始めていた。始めて見るその光景は、リゼが偉大な大賢者であると改めて実感させられるものだった。リッカはリゼの邪魔をしないように、そっとその作業を見守った。それからしばらくして、リゼが対となる転移魔法陣を完成させた頃には、外はすっかり暗くなっていた。
作業に集中していたリゼは作業場内にリッカの姿をみつけると、意外そうな顔をした。
「まだ居たのか? いつもなら、とっくに帰っている頃だろう?」
うっとりとした表情を浮かべていたリッカは、不意に声を掛けられてビクッと体を強張らせる。それから少し照れた様子で、頬をポリポリと掻いた。
「そうですね。でも……」
言葉を詰まらせるリッカを見て、リゼは首を傾げる。
「何かあったのか?」
「ああ……そう! 氷精花が発芽したんです! それをお知らせしようと、リゼさんの作業が終わるのを待っていました。集中力を必要とする作業だったため、途中でお声がけするのは良くないと思いまして」
リッカが興奮気味に答えると、今度はリゼの方が驚いたように目を見開いた。
「それは本当か?」
「はい。こちらに」
リッカはそう言うと、リゼを手招きする。
「発芽したばかりのようでまだ小さいですが、キラキラと輝く芽なので、他の植物ではないと思います」
二人が見下ろす畑にはキラキラと光る小さな芽が二つあった。リッカの鼓動は高まるばかりである。しかし、興奮するリッカとは対照的にリゼは至って冷静な様子で小さな芽を見つめていた。
「こちらが虹の雫を与えた方で、そちらが与えていない方だったか?」
リゼはその芽に手を伸ばした。そして、その小さな芽をそっと優しく撫でた。