新人魔女が目指す、本当の背中(8)
リゼはそう言うと、もう一度大きく息を吐き出した。魔法陣はとても繊細なものである。それらを組み換えるにはかなりの集中力を要し、体力も消耗する。そのため、魔法陣を改良するときは、時間をかけてゆっくりとおこなうものだ。それなのに今回は、リゼもリッカも改良に熱が入ってしまい、がっつりと改良作業に没頭してしまったのだ。疲れが出るのは無理からぬことである。
リゼは疲れたように首を回す。それから、気合を入れ直すように自身の頬を軽く叩いた。
「さて、では始めるか」
リゼの言葉を聞いて、リッカは自身の鞄をゴソゴソと漁る。
「大きめの布で良いですか?」
「あぁ、そうだな。できるだけ大きなものが良い」
リッカは鞄の中から布を取り出すと、それをそっと作業台に広げた。それは作業台を覆い隠すほどの大きさの布であった。
「これで大丈夫ですか?」
「あぁ、問題ない」
リゼは満足そうに頷く。転移魔法陣の改良作業は終わったが、それで終わりではない。これから、改良した魔法陣を媒体となる布に魔力を込めて描かなければならない。まだまだ集中力を必要とする作業は続く。
リッカも魔法陣を描くのを手伝いたいという思いはあるが、転移魔法陣は、寸分の狂いもなく双方向で全く同じ魔法陣でなければ、作動しないらしい。そのため、ここからの作業はリゼに任せることにした。
その間にリッカは、セバンたちの仕事の進捗を確認しておく。セバンたちは慣れたもので、リッカが魔法陣の改良作業をしている間に本日の作業を終わらせたようだった。今は作業効率を考えて設置された遊具で各々好きに遊んでいる。
リッカがセバンたちに声をかけると、彼らは嬉しそうにリッカの元へと駆けてきた。
「みんな、お疲れさま。今日の仕事はもう終わっているみたいね」
リッカは笑顔でそう言うと、セバンたちはぴょんぴょんと飛び跳ねる。我先にと報告をしたいようだ。
「うんうん。みんなありがとう。でも今日は、もうあまり時間がないから、緊急の報告がある子だけ教えてちょうだい」
リッカがそう言うと、二体のセバンが手を挙げた。
「えっと、あなたたちはどこの担当?」
リッカが尋ねると、二体は同時に畑の方を指さした。
「氷精花の栽培ね?」
リッカが尋ねると、二体は頷く。
「どうしたの? 何かあった?」
リッカが畑へ目を向けると、何かがキラリと光を放つ。リッカは目を細めた。それから大きく目を見開く。慌てて畑へと駆け寄った。
「は、発芽したの?」