新人魔女が目指す、本当の背中(6)
「ところで、明日、君の家へ行くことは出来るだろうか?」
リッカは首を傾げる。
「別に構わないですけど、何か用事でも? まさか、早速父に……」
リッカは最悪の事態を想像して顔を青ざめさせた。そんなリッカを見てリゼは面倒くさそうにため息を吐き出す。
「だから、宰相の件は今は問題ないと言っているだろう」
リゼがそう言うと、リッカは目に見えて表情を緩めた。
「以前話をしていた、工房と君の家を結ぶ転移魔法陣を設置したいと思ってな」
「さすがはリゼさん。魔法陣で繋がれば、お姉様の移動の心配はなくなりますね。でも、魔法陣の設置なんて大掛かりな作業になりますよね?」
「まぁ、君と私で作れば直ぐに完成するだろう。だから、それほど長居をすることにはならないはずだ」
リゼがそう言うと、リッカは不思議そうに首を傾げた。
「え? わたしもですか?」
「当たり前だろう。君と私の二人で行う作業だ」
リゼは当然だとばかりに言い放つ。しかし、リッカとしては不思議でならない。
「でも、わたしはまだ転移用の魔法陣なんて描いたことありませんよ」
リゼはリッカの言葉に首を傾げる。
「魔法陣など、どれも対して変わらぬ。君は他の魔法陣を描けるのだから問題ない。それに、わたしは微妙な魔力調整が苦手なのだ。そのあたりを君には請け負ってもらいたい」
「なるほど……」
リゼの物言いにリッカは思わず気の抜けた返事をしてしまった。そんなリッカに聞こえるか聞こえないかくらいの小さな声でリゼはポツリと呟く。
「何より、そろそろエルナさんにお会いしたいしな」
リッカはパチクリと瞬きをする。リゼは怪訝そうにしているリッカの視線に気づくとハッとし、それから誤魔化すようにコホンと小さく咳ばらいをした。そして、徐に立ち上がる。
「では、明日君の家を訪ねる。家の者に伝えておくように」
リゼはそう言うと、静かに扉の方へ歩きだす。リッカは慌ててリゼを呼び止めた。
「あ、待ってください! リゼさん!」
心なしか頬を赤く染めたリゼが振り返ると、リッカはおずおずとリゼに尋ねる。
「その……、転移魔法陣なのですが、わたしも使っても良いですか?」
リゼは何を言われているのか分からず、少し首を傾げる。それから直ぐに合点がいったようで小さく頷いた。
「まぁ、そうだな。エルナさんと君が一緒に移動してくれた方が、色々と都合が良いしな」
リゼの答えにリッカは嬉しそうに顔を綻ばせた。そして、勢いよくリゼの元へと駆けていく。