新人魔女が目指す、本当の背中(5)
リッカは上目遣いでリゼを見上げながら尋ねる。
「本当に……わたしのこと優秀だと思っていらっしゃいますか?」
リゼは小さく微笑んだ。そして、ゆっくりと頷く。
「君は私の助手を務めるほどの優秀な魔女だ。この私が保証しよう」
リゼの滅多に見せない柔らかな顔と真っ直ぐな言葉に、リッカは胸が詰まるような思いがした。リッカは緩む頬を抑えきれないまま、ぺこりと頭を下げる。
「ありがとうございます」
頭を下げつつリッカはつい先ほどまでの鬱々としていた気持ちが噓のように晴れやかになっていることに気づいた。師が自身の実力を認めてくれた。そのことに対する喜びは計り知れない。それと同時に、先ほどまでの自分自身の態度が恥ずかしく思えてきた。
リッカは顔を上げて、おずおずと師の顔を見上げる。いつの間にかリゼは、いつもの不愛想な顔に戻っていた。しかし、リッカの失礼な態度に気分を害した訳ではないことは分かった。
リッカは居住まいを正してリゼに向き合う。そして、もう一度深々とその頭を下げた。
(リゼさんが、この国の大賢者が認めてくれたんだ。わたしは、もっと上を目指そう)
決意を新たに頭を上げたリッカの眼差しは力強い。それを見たリゼは小さく息を漏らすと、静かに紅茶を口にした。
「それにしても、宰相が男性優位の考えの持ち主だったとは……。だから、姉上は君の家との縁談を進言したのだな。宰相の動きを上から封じるために」
リゼは独り言のようにポツリと呟く。その呟きにリッカが反応した。
「なんか、すみません。うちの父が……」
リッカのあまり意味をなさない謝罪の言葉を、リゼは真面目な顔で受け止める。
「いや、君が謝るようなことではない。先ほども言ったが、君の父上のような考えを持つ者は少なくないのだ。むしろ、今のうちに彼の者の思想を知れて良かったと私は思っている。これからの彼の者の動向に注視していれば、万が一の時に直ぐに対処することができるからな」
「は、はぁ……」
リッカはどう答えて良いのか分からず曖昧に相槌を打った。
「エルナさんを巻き込む形で此度の話が決まったからな。あの人に悲しい思いをさせるようなことだけは避けねばなるまい。まぁ、今のところは彼の者も、私とエルナさんの婚姻に利を見出しているようなので問題なかろう」
リゼはそう言うと、話を終わらせるようにすっかり冷めてしまった紅茶を飲み干した。そして、コトリとティーカップを置くとリッカに向き直る。