新人魔女が目指す、本当の背中(4)
リゼは、そんなリッカの様子に呆れたように息をつく。
「だが、そんなことを言っている君自身が、性の別を気にしているのではないか?」
リゼの指摘にリッカは言葉を詰まらせた。リゼは小さく肩をすくめる。
「君の追い求めていた魔女様の正体が私だったと知って沈んだ顔をしていたのは、そういうことではないのか?」
リゼの言葉に、リッカは肩を小さくする。リゼの言う通りであった。魔女様に憧れて、自分も魔女様のようになりたいとずっと思っていた。国一番の魔女になりたいと勉強や実習に明け暮れ、知識を詰め込んできた。
しかし、どこかで諦めがあったのも確かだ。魔法で男性に敵うわけがない。女性である以上、男性と対等になることは叶わないのだと。だから、目標を国一番の賢者ではなく、国一番の魔女としていたのだ。自分の手が届く範囲。自身が目指せる頂点。リッカは、そんな自分の考えを改めて指摘されて恥ずかしくなった。
リッカが何も言えずに俯いていると、リゼはそっと息を吐く。そして、静かに口を開いた。
「君が覚えているかは分からないが」
それはいつもと少し違い、柔らかい声音だった。リゼは少し困ったような顔をしながらもリッカを真っ直ぐに見つめる。その美しい金の眼は柔らかく細められていた。
「私は、君はいつか賢者になるかもしれないと、君の父上にも伝えたのだが」
リッカはその言葉に驚いたように目を見開く。
「あれは、あの場を上手く収める為の方便だったのではないのですか!?」
確かにリゼはエルナを婚約者とする画策を図るためにスヴァルト家を訪れた際にそのようなことを言っていた。リッカはてっきりその場しのぎの言葉だと思っていたのだが、どうやら違ったらしい。
リゼは首を横に振ると、ゆっくりと口を開いた。
「私は方便など言わぬ。君は魔法の使い手として優秀だ。そうでなければこの私が君を助手として雇うわけがなかろう」
リゼの思わぬ言葉にリッカは顔が熱くなるのを感じた。大賢者に優秀だと言われ、嬉しさが込み上げてくる。しかし、リッカはリゼの言葉を素直に受け取ることができなかった。
「ですが、わたしは……」
リッカは口ごもる。憧れの人は男性だった。それもこの国の大賢者。追いかけていた後ろ姿はあまりにも大きかった。俯くリッカに、リゼは語りかける。小さな子どもを諭すように。
「君は優秀だ。自身の力量を過小評価するな」
リゼの口調は淡々としていた。しかし、とても温かくて心地よい。