新人魔女が目指す、本当の背中(2)
「それで、君はどうしてその命の恩人である私に対してそのような不服そうな態度をとっているのだ?」
「それは、その……。憧れていた人がまさかリゼさんだったなんて……」
リッカは気まずげに俯く。
「私で幻滅したということか?」
「……いえ。……ただ、強くて素敵な女性だと思っていたので……」
リッカのその言葉に、リゼはピクリと反応した。そして、愉快そうに笑う。その笑い声にリッカはキョトンとして顔を上げた。そんなリッカの顔を見て、リゼはさらに声をあげて笑う。リッカは何故笑われているのか分からず首を傾げた。
「な、何がそんなに可笑しいのですか?」
「いや、すまない。君はいつも突飛なことをするのに、存外考えの浅い人間なのだなと思ってね」
「どういうことですか?」
リッカはムッとしてリゼを睨みつける。リゼはひとしきり笑った後、リッカに向き直った。その目は何か面白いものを見つけたように輝いている。
「君が素敵な魔女に憧れるのは構わないが、果たして男だ女だと区別するのは何故だ?」
「え?」
リッカは、リゼの言っていることが分からなくてキョトンとする。
「確かに私は男で、魔女ではない。だが、それがどうしたと言うのだ。魔法を使う者。そこに性別など関係あるのか?」
リゼはそう言うと、リッカの反応を待つようにジッと見つめる。しばらくしてリッカの肩からフッと力が抜けた。リゼが訝しげに目を細める。
「少し意外です。まさかリゼさんからそんな言葉が出るなんて」
リゼは不思議そうに首を傾げた。
「何がだ?」
「だって、リゼさんなら『能力の低い魔女などと私を一緒にするな』とか言いそうなので」
リゼは心底意外そうな顔をする。
「それはそうだろう。誰だって、能力の低い者などと同列には見られたくないはずだ」
「はぁ? さっきと言っていることが違うじゃないですか!」
リッカは拗ねたように唇を尖らせる。リゼはリッカの態度を不快に思ったのか不機嫌そうに眉を顰めた。
「結局、リゼさんも男性優位の考えなんですねっ! 口では性別は関係ないとか言いながら、うちの父や世間の考えと一緒じゃないですかっ」
リッカはプイッと顔を背けた。そして、そのまま勢いよく立ち上がると作業場を出て行こうとする。リッカが急に怒り出したことで、それまで不機嫌そうにしていたリゼは驚いて呼び止めた。
「何を怒っているんだ? 君は」
「別に怒ってませんっ」
キッと睨みつけてきたリッカにリゼが呆れたように声をかける。