新人魔女が目指す、本当の背中(1)
新人魔女のリッカは鬱々としていた。長年憧れ続けた魔女様がまさか自分の師であったとは。リッカは、自身の作業場で向かいの席に座りのんびり紅茶を啜るリゼを見つめて恨めしく思う。
「なんだ?」
リッカの視線を鬱陶しく思ったのか、リゼはカップをソーサーに戻しながら問う。リッカは慌てて視線を逸らすが、内心の憂鬱さは消えなかった。
「……何でもありません」
「そうか? ならいいが」
リゼはそう言うと、再び紅茶を啜る。リッカも自分のカップに口を付ける。しかし、いつもほど美味しいと感じられないのは、きっと自分の心持ちのせいだろう。
(強くて素敵な魔女様だと思っていたのに……。わたしが憧れていた人の正体が、まさかリゼさん……この国の大賢者だなんて……)
リッカはふうと溜め息をついた。すると、その様子を見かねたリゼがうるさそうに口を開いた。
「さっきから何だ? 言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうだ?」
リゼの不機嫌そうな顔に、リッカはビクリと肩を跳ねさせる。そして、慌てて首を左右に振った。
「いえっ! 何でもありません」
そんなリッカにリゼはますます不機嫌になる。
「魔女様のことか?」
リッカはビクリと肩を跳ねさせた。リゼの眉間に皺が寄る。
「な、何故それを……?」
「君が昨日口にしていたではないか」
リゼは呆れた様子で溜め息をついた。
「私を見て、魔女様と言っていたように思うが、あれは一体どういうことだ?」
リゼの問いに、リッカは観念したように項垂れた。そして、ぽつりぽつりと話し出す。
六年前、リッカが森で迷子になり魔物に襲われそうになっていたときのこと。偶然通りかかった強い魔法を使う髪の長い美人に助けられたこと。それからずっと憧れていたこと。それからリッカは、その魔女様のような立派な魔女になることを夢見ていたことを話した。
リゼは黙って話を聞いていたが、話が終わると小さく溜め息をついた。
「確かに以前そのようなことがあったが、まさかあの時の子どもが君だったとは」
「その節はお世話になりました。わたし、あの時はまだ子どもで、しっかりとお礼も言えなくて」
リッカはおずおずと礼を述べる。リゼは再び溜め息をついた。
「別に気にすることはない。感謝されたくて助けたわけではない。ただ通りすがりに魔獣退治をしただけだ」
「そうかもしれませんが、わたしにとっては命の恩人です。本当にあの時はありがとうございました」
リゼはバツが悪そうにそっぽを向く。