新人魔女が見た憧れの後ろ姿(8)
リッカが慌てて礼を述べると、白猫は興味無さそうに返事をする。
「別にええよ。それより、アイツをなんとかしてやった方がええんちゃうか?」
「え?」
グリムの視線の先には、白いふわふわの毛並みを血で赤く染めたフェンの姿がある。リッカは慌ててフェンを抱き上げた。
「フェン! しっかりして!」
リッカが必死に呼びかけると、フェンが小さく唸った。
「すみません。リッカ様。僕、お役に立てなくて……」
どうやら意識ははっきりとしているようだ。リッカはホッと安堵する。
「そんなことないから。フェンは頑張ってくれたよ。今、治癒魔法をかけるから、もう少し待ってね」
リッカは泣きそうになりながら必死に使い魔に呼びかける。そんな主の腕の中で、フェンがキョトンとした顔をする。
「リッカ様。僕は大丈夫ですから」
「大丈夫なわけないじゃない。こんなに血塗れになって」
リッカが涙ながらに訴えていると、背後でククッと笑い声を堪える声が聞こえた。リッカが声のした方を睨みつけると、リゼが顔を背けながら必死に笑いを堪えていた。リッカは顔を真っ赤にして怒る。
「ど、どうして笑うんですか! フェンが一大事なんですよ!」
「いや、すまない。君があまりにも必死なものでつい」
リッカはプイッと顔を背けた。
「当たり前じゃないですか。フェンはわたしの大切な使い魔なんですよ」
そんなリッカに、リゼが笑いを堪えながら声をかける。
「まあ、少し落ち着け。その使い魔は大丈夫だから」
「だから、大丈夫なんかじゃないんですってば。こんなに血塗れに……」
リッカが尚も言い募ろうとしたその時、フェンがリッカの腕の中から抜け出し、スッと立った。
「僕、本当に何ともないんです。奴らの血を浴びただけですから」
その言葉を聞いて、ようやくリッカは現状を理解した。そして、自分自身も血塗れであることに気がついた。
「そ、そうなの? ああ、わたしも血塗れ……」
呆然と呟くリッカに、リゼが呆れたように肩を竦めた。
「ようやく正気に戻ったな」
そう言いながら、リゼはリッカとフェンに浄化魔法をかける。リッカは、温かで清らかな魔力が体を包むのを感じた。体の汚れがきれいに洗い流されていく。リッカはその温かな魔法に懐かしさを感じた。
「魔女様と同じ魔法……」
ポツリと呟いたリッカに、リゼが怪訝そうな顔で反応する。
「これは、私意外使える者はいないはずだが?」
その言葉で、リッカは唐突に憧れの魔女様の正体に気づいたのだった。