新人魔女が見た憧れの後ろ姿(7)
それを見逃さず魔鼠たちが一斉に飛び掛かってきた。リッカはビクリと肩を跳ねさせる。立ち尽くすリッカの前に、主を守ろうと使い魔が躍り出た。
全てがスローモーションのように流れる。小さな背中がリッカの視界一杯に広がる。リッカは悲鳴を上げた。
「フェン! ダメっ!」
その瞬間。突然目の前でパンッと何かが弾けた。一瞬の閃光に目がくらみ、リッカは反射的に目を瞑る。次の瞬間、一陣の風が吹いた。木々がざわめき、枝葉の間から鳥たちが一斉に飛び立つ音が響き渡る。
(何が起こったのだろう?)
リッカは恐る恐る目を開く。すると、先ほどまでリッカを取り囲んでいた魔鼠たちは、悉く切り刻まれ、その場を血で染め上げていた。
風に巻き上げられた血飛沫が雨のように降る中、何が起きたのか理解できないリッカは、ポカンとして立ち尽くす。リッカの目の前には、風に衣服と赤い短髪をなびかせながら佇む、華奢な後ろ姿だけがあった。
リッカは呆然とその後ろ姿を見つめる。しかし、その光景はどこか見覚えのあるものだった。リッカの記憶の断片と目の前の光景が重なる。そう。それは六年前のあの時に見たものと同じだった。
判然としなかった意識と体が一気に覚醒する。手足の震えが止まる。足は地面をしっかりと踏みしめ、視線は目の前の人物に固定される。リッカは確信した。あの時よりも髪が短いが間違いない。この後ろ姿を自分は知っている。今、目の前にいる人物は……。
「……魔女様………」
リッカの呟きが耳に届いたのか、その人物がゆっくりと振り返った。その顔を見て、リッカは大きく目を見開く。
そこに居たのは、六年前と変わらぬ美しい姿の魔女様ではなく、怪訝な顔をした自身の師、リゼラルブ・マグノリアその人だった。リッカは呆然とリゼの姿を見つめる。
「……リゼさん? ……何で?」
リッカの問いにリゼは呆れた様子で返す。
「グリムが、君たちが危ないと知らせてきたのだ」
「グリムさんが?」
リッカは周囲を見回す。近くの草むらから一匹の白猫が姿を現わした。白猫は何事も無かったかのように、リゼの足下まで来ると気だるそうに欠伸を一つした。
「わいは、あんたの監視が仕事なんや」
そういえば、以前にもそんなことを言っていたなと、リッカは思い出す。ふっと体から力が抜けた。
ヘナヘナと座り込みながらも、二ヘラとグリムに笑みを見せる。
「危ないところでした。リゼさんを呼んでくださってありがとうございます。グリムさん」