新人魔女が見た憧れの後ろ姿(6)
リッカの魔法によって魔鼠の群れが一掃され、周囲に静寂が訪れる。
「終わったかしら?」
リッカが周囲を警戒しつつ呟いた。見える範囲に魔鼠たちの姿はない。
「そうですね」
リッカの足下でフェンがホッと一息ついた。しかし、その直後。
「上だ! 避けろ!」
突然、周囲に警戒の声が響く。その声に驚いてリッカが上空を見上げたその時、周囲の木の枝からバッといくつもの影が飛び出してきた。その影はリッカとフェン目掛けて勢いよく落ちてくる。
「やっぱりまだいたのね」
リッカは周囲を見回しながら呟いた。頭上から落ちて来た何十匹もの魔鼠がリッカたちを取り囲んだまま、ジリジリと距離を詰めてくる。
「さっきよりも数が多い……」
ざっと見ただけでも先ほどの倍の数はいるだろうか。フェンは威嚇の声を上げながら唸る。リッカの顔に焦りの色が浮かぶ。
魔鼠は単体なら然程強くない魔物だが、厄介なのはそのしぶとさと、数の多さだ。縄張りを守るためなら、メスも子どもも関係なく最後の一個体になるまで次々と襲い掛かってくる。そのため、少しでも気を抜けばあっという間に数に呑まれてしまう。気力と魔力をどのくらい保てるか。それが勝負の鍵となる。
リッカはフェンの首元に視線を移す。風魔法の魔力を示す緑色の石に光がない。どうやら、もう風魔法は使えないようだ。他の魔力の石も先ほどよりも光が弱まっている。きっと、フェンの魔力量自体が減っているのだ。
リッカは小さく舌打ちした。このままではあの時と同じだ。リッカの脳裏に一瞬、六年前の出来事が蘇る。魔物の群れに囲まれた恐怖。ただ怯え、泣きじゃくるしか出来なかった弱い自分。
「だ、大丈夫。あの時とは違う」
リッカは自身を奮い立たせるようにそう呟く。しかし、そんな言葉とは裏腹に体に全く力が入らない。それまでの自信はどこへ行ってしまったのか。足が小刻みに震える。
「リッカ様! リッカ様!」
主の様子がおかしいことに気付いたのだろう。フェンが必死に呼びかける。しかしリッカには、その声は遠くで反響するように聞こえていた。恐怖に支配された意識の中で、リッカは魔鼠たちの動きから目を離さないことだけに注力していた。
そんな時、ふと先ほどの声を思い出す。リッカたちに危険を知らせたあの声の主は、一体何者なのだろうか。近くにいるのか。助けを求めるか。いや、本来ならば、自分が助けなくてはいけないのだが。
そんな考えを巡らした一瞬、リッカに隙が出来た。