新人魔女が見た憧れの後ろ姿(5)
魔鼠は群れを成して行動する特性を持っている。先ほどの数匹の突進だけで終わるわけがない。油断は禁物だ。フェンも警戒するように唸り声を上げ続ける。
しばらく膠着状態が続いていたが、先に痺れを切らしたのは魔鼠の群れだった。フェンの放つ竜巻の威力が衰え始めたのを見定めて、左右の茂みから魔鼠たちが一斉に飛び出してきた。その数を見てリッカは息を飲む。
「これは!?」
魔鼠は二十匹以上はいるだろうか。その数から察するにどうやらリッカたちは魔鼠の縄張りに足を踏み入れてしまったようだ。
魔鼠たちは次々と襲い掛かってくる。フェンは再び風魔法を発動させ、竜巻の防御壁を強化した。魔鼠たちは突進の一手しかないのか、頭から突っ込んできては、フェンの防御壁に弾き飛ばされていく。しかし、群れの数は一向に減らない。それどころか、次々と新たな魔鼠が押し寄せてきていた。いつの間にか魔鼠の群れがリッカたちを取り囲んでいる。このままでは埒が明かない。
リッカはフェンの首元へと視線をやる。首元の宝石は五色全てが輝いていた。どの属性魔法でも使えることを確認したリッカは、フェンに指示を出す。
「どうやら、私たちは魔鼠の縄張りに入ってしまったみたいね。何とか切り抜けましょう。フェンは、前方の魔鼠たちをお願い。私は後方を対処するわ」
「はい!」
リッカの言葉にフェンは元気よく返事をする。
「ああ、それから、火魔法は使わないで。森の木まで燃やしちゃうといけないから」
「はい! わかりました!」
フェンは即座に了承の意を示した。そして大きく口を開き、次の瞬間には勢いよく水流を吐き出した。自分たちを守っていた竜巻の防御壁に水流を乗せたのち、フェンは三度目の風魔法を発動させ、水流の渦を広く大きく広げていく。フェンの魔法は前方の魔鼠だけでなく、後方の魔鼠までもを飲み込んだ。リッカはその魔法の威力に少々呆れ苦笑いを浮かべる。
「あら、私の分まで倒してくれるの? 助かるわ」
リッカの言葉にフェンは得意げに胸を張る。そんな使い魔に負けてられないとリッカも自身の魔法を発動させた。
「それじゃあ、後はわたしがやるわね。〈氷結塊〉」
リッカが小さく呟くと、それまで激しく渦を巻いていたフェンの水流がパァンと勢いよく霧散した。そして、ドカドカと大きな音を立てながら氷の塊が地面に積み重なった。それら氷の中には魔鼠の姿がある。リッカは、フェンの水流を使って魔鼠を氷漬けにしたのだ。