新人魔女が見た憧れの後ろ姿(4)
「洞窟というよりは、洞窟へ行くまでの道のりに用があるんです」
フェンの言葉にリッカは首を傾げる。
「道中に何かあるの?」
問いかけるとフェンは小さく首を振る。
「何かあるかもしれないとは少しだけ期待しているのですが」
「どういうこと?」
「僕はたくさん魔法の特訓をしているけれど、実践経験が少ないと思うのです。だから、洞窟までの道のりで、実践に出くわさないかと……」
フェンの言葉にリッカは「なるほどね」と頷く。確かに、フェンはこれまで魔法の特訓をしてきた。訓練の様子を見るに、魔法の扱いは格段に上手くなっている。この辺りで実力を試したいのだろう。
「そういうことなら、いつもとは違う道を行きましょうか。たまには冒険も楽しいかもしれないわね」
リッカがそう言うと、フェンは表情をパッと明るくして尻尾を振った。そんな使い魔の様子を微笑ましく思いながら、リッカはフェンを腕から下ろすと再び歩みを進めたのだった。いつもの道を外れ、フェンを先頭に草の生い茂る道なき道を進んでいく。
しばらく獣道を進んだところで、不意に周囲に何かの気配を感じた。フェンもその気配を感じ取ったのかしきりに鼻をひくつかせている。リッカが警戒しながら周囲を見回していると、ガサゴソと草むらから何かが飛び出してきた。フェンは素早く飛び退き、リッカの足下からその何かに向けて威嚇の唸り声を出す。
飛び出してきたものは、鼠のようだった。しかし、通常の鼠よりも一回りか二回りほど大きく、その前歯は大きく発達し、眼は赤くギラついている。明らかに普通の鼠とは異なる。魔鼠だ。魔鼠は、リッカたちに気が付くと、全身の毛を逆立てて威嚇の声を上げた。しかし、こちらへ飛び掛かってくる様子はなく、魔鼠はジリジリと後退していき、やがて茂みの中へ消えていった。
しかし、周囲からはこちらを警戒する気配がヒシヒシと伝わってくる。リッカはフェンと視線を合わせて頷き合う。二人は周囲に注意を向けつつ、慎重に先へと進む。
暫く歩けば、再び草むらがガサゴソと音を立てて揺れた。程なくして茂みの奥から黒い塊がいくつも飛び出してきた。フェンはすかさず尻尾を揺らし風魔法を発動させる。自身とリッカの周りに竜巻の防御壁を張り、その攻撃を防いだ。風の塊に弾かれた数匹の魔鼠が悲鳴を上げる。
リッカは周囲を見回す。茂みの中には赤くギラついた眼が無数に蠢き、こちらを窺っているようだった。
「フェン。気をつけて」