新人魔女が見た憧れの後ろ姿(3)
リッカは自身の作業場へ場所を移す。作業場ではいつものようにセバンたちが決められた作業に精を出していた。リッカはセバンたちに声をかけながら作業の進捗状態を確認する。とくに変わったことはないようで、ホッと胸を撫で下ろした。
セバンたちに仕事を任せることで、別の作業を並行して行えるようになったことに満足しつつ、リッカは鞄に入れていた新作魔道具の材料を作業台の一角に広げ始めた。
「リッカ様? 何かお作りになるのですか?」
リッカの影から出てきた使い魔のフェンが、作業台に飛び乗りリッカの手元を覗き込む。
「うん。リゼさんにお渡しする魔道具をね」
リッカがそう言うと、フェンは尻尾をフリフリと楽しげに揺らし始めた。
「じゃあもしかして、この後洞窟へ素材採取に行ったりしますか?」
「うーん……今日は行かないかな。今日の作業は、手持ちの材料で大丈夫そうだから」
リッカの答えにフェンは残念そうな顔をする。
「そうですか……」
「どうしたの? 洞窟に何か用事があるの?」
リッカが問いかけると、フェンはシュンと垂れた尻尾と共にフルフルと首を横に振った。
「いえ……何でもありません」
そんなフェンを宥めるように、リッカは優しく頭を撫でた。明らかにガッカリしている使い魔の姿を見て、リッカは苦笑を浮かべる。
「ああ、そうだった。洞窟へ水晶を取りに行かなきゃいけないのを忘れていたわ」
本当は水晶の採取は明日以降でも良いのだが、使い魔のあまりにも残念そうにしている姿を見て、ついリッカはそう口にしてしまった。フェンがパッと顔を上げ、キラキラと期待に満ちた眼差しを向けてくる。リッカはニコリと微笑み返した。この可愛さには抗えない。
使い魔の期待に応えるべく、リッカは早速洞窟へ向かうことにした。どうせなら薬草採取もしてこようとセバンを一体肩に乗せ、残りのセバンたちに見送られながらリッカは工房の外へ出た。
リッカの足下を歩くフェンは上機嫌でパタパタと尻尾を振っている。その可愛らしい姿を見て、リッカの口元にも笑みが溢れた。
「ねぇ、フェン」
リッカの呼びかけにフェンはピクッと耳を動かす。
「はい。何でしょうか?」
「どうして洞窟へ行きたかったの?」
リッカが尋ねると、フェンはキョトンとした表情を浮かべた後、少し恥ずかしそうに俯いた。リッカは足を止めてフェンを抱き上げる。穏やかな眼差しで使い魔を見つめていると、そんな主の視線にフェンは観念したように口を開いた。