新人魔女が見た憧れの後ろ姿(2)
「思い出を見るだけの魔道具など、何の役にも立たないだろう」
淡々とした声音で紡がれる言葉に、リッカは唇を噛み締めた。相変わらずつまらなさそうな表情を崩さない師の視線に耐えながら、リッカは口を開いた。
「あの……この魔道具は決して無意味な物にはならないと思うのです。例えば、結婚の記念に男性から女性へ送ったり、子供の誕生の記念に親から子へ送ったり。思い出を大切にしたい人にとっては、文字通り心を込めた贈り物となるのではないでしょうか」
リッカの言葉にリゼは眉を顰めた。
「つまり……その思い出の投影こそが付加価値だと?」
リッカはコクリと小さく頷く。
「はい。思い出というものは、人によっては掛け替えのない宝物だと思うのです。この魔道具に需要はあると思います」
どこか納得のいかないような表情を浮かべる師に、リッカは恐る恐る口を開く。
「……あの、何かご不満な点でも?」
「別に不満はない。だが、君の考えに全く賛同できないだけだ」
リッカは「そうですか……」と小さく呟き、項垂れた。
「リゼさんの理解が得られないのならば、この魔道具の作成は中止した方が良いですね……。お姉様も完成を楽しみにされていたのに残念です」
リッカの言葉にリゼはピクリと片眉を上げた。
「エルナさんも、この魔道具を楽しみにしているのか?」
「はい。……実はお姉様にこの魔道具の話をしたら、素敵な魔道具だと褒めて下さったのです」
リッカの話を聞いたリゼは考え込むように黙り込んだ。リッカはそんな師の様子を窺う。暫くの沈黙の後でリゼがゆっくりと口を開いた。
「それならば、早速試作を作るといい」
その言葉に、リッカはパッと目を輝かせる。リゼはそんな彼女の様子を視界に捉えながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「ただし、条件がある」
リッカは慌てて姿勢を正す。
「完成した魔道具は私が買い取ろう」
「え?」
リゼの言葉の意味が分からず、リッカは首を傾げた。リゼは淡々と言葉を続ける。
「それから、必要な材料があればその分は私が負担しよう」
リゼの言葉にリッカは困惑した表情を浮かべる。
「えっと……それは……」
「……エルナさんが心待ちにしているのであれば、完成したものを私から彼女に送りたいのだ。……君が先ほど言ったではないか。結婚の記念に男性から女性へ送るような魔道具にすると」
そっぽを向きぼそぼそと呟く師に、リッカはなるほどと顔を綻ばせた。
「分かりました。では、早速作業を始めますね」