新人魔女が見た憧れの後ろ姿(1)
新人魔女のリッカはドキドキと高鳴る胸をそっと押さえた。大きく息を吐き、少し背を正してから工房の扉をゆっくりと押し開けた。
「お、おはようございます」
いつもよりもやや控えめに挨拶をすると、リッカは工房の中に入る。工房の執務机で何やら書類をチェックしていたリゼが、チラリと視線を上げた。彼の持つ書類の束がまだまだ残っていることを目に留めながら、リッカは恐る恐る口を開いた。
「あの……リゼさん?」
「何だ?」
相変わらず不機嫌そうな声音でリゼは返答する。
「先日は……その、失礼な言い方をしてしまい、申し訳ありませんでした。昨日は、あのような場でしたので、しっかりと謝罪することができなくて……」
リッカのたどたどしい謝罪に、リゼは書類から顔を上げた。
「あの、それでお城の方にお渡しした物は見ていただけたでしょうか?」
おずおずと尋ねるリッカに対して、リゼは書類を机に置くと「あぁ」と頷いた。リッカはホッと胸を撫で下ろす。昨日の謁見を終えた後に、リッカは次に作る魔道具の設計図を皇太子の従者を通じてリゼに提出していた。
「あの……どうでしたか?」
恐る恐る尋ねると、リゼはしばし沈黙した後で口を開いた。
「悪くはない」
素っ気ない言葉だったが、リッカは思わず顔を輝かせる。リゼはそんなリッカから目を逸らした。机の上でトントンと小さく書類を整えた後、リゼは再び視線を上げる。リゼは暫くの間ジッとリッカを見つめた後、徐に口を開いた。
「一つ、君に聞きたいことがある」
リッカは首を傾げる。
「何でしょうか?」
「君は、どうしてこの魔道具を作ろうと思った?」
予想外の質問に、リッカは目をパチクリと瞬かせた。「何故そんな質問を?」という疑問が顔に出たのだろう。リゼは小さく息を吐いた。
「別に他意はない。ただの興味だ」
そうは言うものの、その声音にはどこか真剣な響きが含まれている。リッカは、顎に手をやり少しの間考え込んだ。
「そうですね……一番はやはり、付加価値をつけるならと考えたからですが」
リッカの答えにリゼはつまらなさそうな顔をする。そんな師の様子にリッカはキョトンと首を傾げる。
「そうではなく、どうしてこのような、意味のない魔道具を作ろうと思ったのだ?」
先程とあまり変わらない問いかけに、リッカは再び首を傾げた。
「……えっと、一応思い出を投影できる魔道具なので、意味はあるのですが?」
遠慮がちに反論する弟子に、リゼは大きなため息を吐いた。