新人魔女が聞いた襲撃犯のその後(5)
「リゼラルブ様」
エルナはリゼに呼びかける。
「私は、リゼラルブ様の婚約者としてこの場に立つことができることをとても嬉しく思っております」
そんなエルナの言葉にリゼは嬉しそうに微笑んだ。蕩けた表情を見せる皇太子に代わり、国王陛下がゆっくりと口を開く。
「それは、これからも皇太子の婚約者、ひいては未来の皇太子妃として、リゼラルブの横に並び立つ気があるということか?」
国王陛下の問いかけに、エルナは力強く頷いた。
「もちろんにございます。この身がある限り、リゼラルブ様をお支えし、この国のために尽力する所存でございます」
エルナの毅然とした態度を見て、国王は満足気に頷いた。そしてリゼへ視線を向ける。リゼも小さく頷き返した。
「エルナ嬢の心意気に感服した。よいな皆の者。この者の忠信をしかと胸に刻み付けよ。今後またこの者の身を狙う不届き者が現れた際には、王族への侮辱罪として処せられるということを肝に銘じよ」
婚約者とは言え、まだ正式には王族に輿入れしたわけでもない一貴族の娘に対する扱いにしては少々不自然さを感じたリッカは、思わず宰相である父の顔を見る。しかし、父は全くの驚きの色を見せず、それどころか重鎮たちは国王の言葉に不服の声も上げず、一斉に頭を下げた。
「さて、それで今回の襲撃犯についてだが……」
そう言いながら国王は少し間を空けた後で続けた。
「此度の襲撃犯について其方らは何か知っているか?」
国王はエルナとリッカに対して唐突とも思える質問を投げかけた。二人は互いに顔を見合わせる。
「申し訳ございません、陛下。私どもは、本日、襲撃犯についての事後報告がなされるとだけ聞かされておりまして、何も存じ上げません」
エルナが謝罪の言葉とともに頭を下げた。それに倣いリッカも静かに頭を下げる。国王マリアンヌはチラリと宰相の方へ視線を向けた。その視線をイドラは澄ました顔で受け流す。
「そうか。身内の恥は自身で晒せ、ということか」
国王は小さく呟く。そんな国王の様子にリッカは首を傾げた。エルナも不思議そうな表情で国王陛下を見つめている。リゼだけが苦虫を噛み潰したような表情で重鎮たちを見つめていた。
「ならば、改めて話すとしよう」
国王の言葉を受け、リッカとエルナは再び頭を下げた。
「先日の襲撃事件についてだが、リッカ嬢の尽力により捉えた襲撃実行犯は、テレシア・ベレナスという者だ。普段は魔物討伐隊に参加する冒険者崩れのようだ」