新人魔女が聞いた襲撃犯のその後(1)
新人魔女のリッカはいつになく仏頂面だった。それもそのはず。つい先ほどリゼの使役獣であるフクロウが王城への呼び出しの書状を運んできたからである。
義姉のアドバイスを受けた後、リッカは一心不乱に新しい魔道具の設計図を描き上げ、寝不足ながらも本日は試作品の錬成のためにいつもの洞窟へ行こうと思っていたのだ。その計画は手の中にある書状によって、泡と消えた。
「はぁ……」
思わず溜息が漏れる。いくら自身の経験値を高めるための研究とはいえ、相手がある仕事なのだ。予定通りにいかないことに対する苛立ちは多少なりとも生じる。それに、リゼに納得してもらうために今回の魔道具を考えたのだ。出来れば試作品を早々に作り上げたうえで、リゼともう一度話をしたかった。
しかし、呼び出しに応じないわけにはいかない。相手はあのリゼだ。禍根を残したままでいいはずがない。なかなか思い通りに物事が進まない苛立ちをリッカは溜息と共に吐きだしながら、徹夜で描き上げた魔道具の設計図を小さく折り畳み懐へ忍ばせる。せめて、設計図だけでも見せて、リゼの怒りを鎮めようと思ったのだ。
それにしてもと思いながらリッカは三度目の大きな溜息をつく。王城からの呼び出し理由に全く心当たりがなかった。師であるリゼとは喧嘩中だが、まさかリッカとの仲を修復するためにわざわざ王城へ呼ぶとは思えない。一体何事だろうか。リッカは鬱々とした気持ちのまま自室を出た。
部屋を出てすぐに後ろから声をかけられリッカは足を止めた。振り返るとそこにはエルナが立っていた。
「あら、リッカさん。おはようございます」
「お姉様、おはようございます」
「リッカさん、顔色が優れませんけれど、大丈夫ですか?」
エルナに問われて、リッカは思わず自身の顔に手を当てた。確かに寝不足ではあるが、そこまで酷い顔をしているだろうか。
「大丈夫です。少し寝不足なだけです。例の設計図を仕上げるのに少々根を詰め過ぎてしまいました」
リッカがそう答えると、エルナは労わるように「無理はしないでくださいね」と言った。そんな義姉の言葉にリッカは小さく頷く。
「ところでお姉様。王城からの呼び出しなのですが、何の要件だか分かりますか?」
「いいえ、分かりません」
リッカの質問にエルナは少し困ったように眉根を寄せる。その表情を見てリッカは困ったように笑った。
「ですよね……」
思わず溜息が漏れる。押し黙ったまま二人は食堂へ足を踏み入れた。