新人魔女とアドバイザー(8)
リッカの懸念にエルナはきっぱりと言い切る。その義姉の反応に、リッカは不思議そうに首を傾げた。そんな反応を見て、エルナは、まるで何か秘密を告白するような、少し悪戯っぽい表情でゆっくりと口を開く。
「こちらは、貴族を主な購入者層として想定すれば良いのです。貴族であるリッカさんの前でこんなことを言うのは憚られるのですが、貴族というのは見栄を張りたがる方が多くいらっしゃいます。そして、見栄を張るのに手っ取り早い方法が他者よりも先に流行の品を持つことなのです」
エルナはそう言ってリッカに微笑みかけた。その笑みはどこか悪戯っぽい。リッカはそんな義姉の笑顔を見て、思わず苦笑をもらしたのだった。
「確かにそうですが、この魔道具が流行のアイテムになるとは……」
「いいえ。なります。間違いありません。……うふふ、それどころか流行の最先端になるかもしれませんよ?」
エルナはそう言って楽しそうにクスクス笑った。その笑みは確信に満ちていて、リッカに反論の言葉を紡がせない。それでも尚諦めきれずに口を開こうとしたリッカを遮るように、エルナは言葉を続けた。
「そして肝心の触媒となる水晶ですが、こちらは、購入者本人に用意していただくのです。小さな石であれば石屋で購入することができますから、然程難しいことではありません。それに、魔道具の為に事前準備を行わなくてはならないとなると、それを面倒に思う方はオーダーしてこないでしょう。また、オーダーメイド制であれば、リッカさんの他のお仕事を圧迫しないように受注制限がかけられます」
リッカはエルナの自信満々な様子に思わずたじろぐ。こういう時の義姉は、案外意志が固いことをこれまでの付き合いから知っていたリッカは、大人しく口を閉じた。諦めた様子のリッカを見て、エルナがにっこり微笑む。リッカは嬉しそうに笑う義姉を見つめながら小さく嘆息した。そして、諦めと共に苦笑を浮かべるのであった。
「流行のアイテムとなるかどうかは分かりませんが、精霊魔法を付与した魔道具を造るということであれば、多少はリゼさんのお怒りを鎮めることができるかもしれません。早速、設計図と試作品を作ってみることに致します」
リッカの結論に、エルナはパッと表情を明るくした。
「リッカさんのお力になれて良かったです」
エルナの言葉に、リッカは慌てたように頭を下げた。
「ご心配をおかけしました」
「いえいえ。完成を楽しみにしていますね」