新人魔女とアドバイザー(2)
そこまで言ってリッカは言葉を詰まらせた。そんなリッカの様子にエルナは何かを察したように頷いた。
「なるほど。さてはネージュ様と喧嘩でもしましたね?」
エルナの言葉にリッカは驚いた。
「え? なんでそれを?」
そんなリッカにエルナは小さく笑う。
「ふふ。女の勘というやつです」
そう言って悪戯っぽく片目を瞑る義姉に、リッカは思わずポカンとした表情をしてしまう。
「というのは冗談ですが、いつもは楽しそうにお仕事へ向かわれるリッカさんが、仕事に行く気になれないだなんて、ネージュ様と何かあったのだろうと簡単に予想できます」
エルナの言葉にリッカは、苦笑いを浮かべる。そんなリッカにエルナは優しく微笑んだ。
「何か悩み事があるなら、私に話してみませんか? 話すだけでも心が晴れますよ」
義姉の優しげな表情に、リッカは素直に頷いていた。リッカはエルナを自室に通し席を進めると、自分も椅子に座った。そして、昨日の出来事をエルナに話して聞かせた。リゼがなぜ自分の研究時間を削るのかと怒ったこと。リッカの思いなど全く考慮しない師の言葉に悲しくなってしまったこと。それから、他者と比較するような言葉を投げて傷つけてしまったかもしれないこと。
話し終えると、エルナは優しく微笑んだ。義姉の優しげな表情に、リッカは少し気が軽くなった気がした。
「ネージュ様はリッカさんの成長を強く願っておられるのですよ。それは近くで見ていれば分かります。きっと、リッカさんにもっとたくさんの研究の機会を与えてあげたいのでしょうね。だから、研究にもならないような物づくりに時間を割いているリッカさんのことが、ネージュ様には歯がゆかったのでしょう」
エルナの言葉にリッカは眉を下げる。
「それは、何となく分かるんです。でも、それでも……」
リッカは言葉に詰まった。煩わしいことに振り回されず、実習や研究に励みたい。そのために静かな森の中にある工房でのんびりと働くことを希望していたのだ。それなのに、現状では仕事を請け負い、研究時間を削っている。確かに本末転倒な状況だ。
でも、ミーナやラウルの力にはなりたいのだ。言葉に出来ない気持ちが胸の中で渦巻き、行き場を失った言葉が吐息となって溢れる。そんなリッカにエルナは優しく微笑んだ。
「リッカさん、そんなに思いつめなくても良いのではありませんか? リッカさんがネージュ様に言ったように『これも研究だ』と割り切ってしまえば良いのですよ」