新人魔女とアドバイザー(1)
新人魔女のリッカは自室で深いため息をこぼした。昨日のリゼとの会話を思い出す度に、リッカは胸の奥に重く黒い物が溜まっていくような錯覚を覚える。そして自分の不甲斐なさに落ち込みそうになるのだ。
リッカは、もう何度目になるか分からないため息をこぼした。昨日から何度もため息ばかりついている。しかし、それも仕方のない事だった。リゼは口は悪いが、それでもこれまでリッカを見守ってくれていた。時には厳しく叱咤し、しかしそれには必ず優しさが滲み出ていた。リッカにとってリゼは厳しい師匠でありまた優しい師であったのだ。リッカの中でリゼは、名も知らぬ「憧れの魔女様」と同格な存在だった。大賢者であるリゼの事を心から尊敬していた。だからこそ、そんな師に自分の考えや思いを否定されたことが悲しかった。
リッカは自室の机に突っ伏した。そして、また深いため息をこぼす。リゼと初めて衝突したという事実がリッカの気分を重くする。大賢者と他者を比較するような物言いをしてしまったことを後悔する。リゼは明らかにリッカに対して怒っていた。その証拠に、リゼはそのままリッカとの会話を終わらせると、荒々しい足取りでリッカの作業場を出て行った。しばらくしてリッカはリゼの研究室を覗いてみたがそこに師の姿はなく、使い魔であるグリムが定位置でいつものように昼寝をしているだけだった。グリムを起こしてまでリゼの行方を尋ねることは憚られた。
リゼと共に過ごした時間はまだ然程長くはない。それでも馬が合ったのかリゼとは良い師弟関係を築けていたと思う。その関係が勢いに任せたほんの些細な一言で壊れてしまったような、そんな気がしてリッカは悲しかった。リッカは肩を落としながら帰宅し、何度となくため息を漏らした。
再び深いため息を零したリッカの耳にノックの音が響いた。続いて自身を呼ぶ声が聞こえてくる。慌てて身を起こすとリッカは扉へ向かった。扉を開けるとそこにはエルナが立っていた。エルナはリッカに微笑みかけると、部屋の中へと入ってきた。
「リッカさん、本日は工房でのお仕事はお休みですか?」
「……お休みというか、ちょっと行く気になれなくて」
唐突な質問に首を傾げながらも、リッカは素直に答える。そんなリッカにエルナは表情を曇らせた。
「まぁ……、どこか具合が悪いのですか?」
心配そうな義姉の声にリッカは慌てて首を振る。
「いえ、そういう訳では。少し工房に行きづらくて……」