新人魔女と師匠の間に起きたわずかな軋轢(4)
リッカは嬉しそうにリゼに礼を述べる。そんなリッカを恨めしそうに見ながら、リゼはセバンたちへと視線を移した。そして、セバンたちにも声をかける。
「術者の意向でお前たちの遊び場を作ることになった。何か要望はあるか?」
しかし、セバンたちは互いに顔を見合わせて首を傾げるばかりだ。その様子にリゼは肩を竦める。
「聞くだけ無駄だな。どうせ私にはお前たちが何を思っているのかはわからんのだから」
リゼの呟きにリッカは「そんなこと言わないでください。セバンたちはしっかりと意思表示できますよ」と膨れるが、リゼは「知らん」と取り合わない。何やら一人でブツブツと呟き、何も無い空間に向けて手を動かす。おそらくどのような物を作り出すかイメージしているのだろう。
しばらくするとリゼは虚空に向かって動かしていた手を止め、「こんなものか」と頷いた。それから懐から杖を取り出す。
「おい、何か紙はないか?」
ぶっきらぼうにリゼがそう言うと、リッカは慌てて鞄を漁る。鞄から取り出した紙の束をリゼに渡せば、リゼは杖を使ってそれにサラサラと設計図を描き始めた。その手際の良さにリッカは思わず見惚れる。
「ふむ。これでよかろう」
しばらくしてリゼは満足そうに頷くと、何も無い空間へふわりと紙の束を投げた。そして杖をかざす。杖を向けられた紙束は一瞬パァッと光りを放つと、みるみるうちに形を変えていく。やがてそれらはリッカの要望通りの場所でいろいろな遊具として形を成した。
「わぁー」
リゼの手際の良さにリッカは思わず感嘆の声を漏らす。そんなリッカの反応にリゼは少し得意そうに鼻を鳴らす。
「これでどうだ?」
「はい! 完璧です」
リゼの問いかけにリッカは満面の笑みで頷いた。それから、嬉しそうにセバンたちへ語りかける。
「みんな! もう少しだけ待っていてね」
リッカの呼びかけにセバンたちは一斉に頷く。そんな彼らのためにリッカは、設置されたばかりのシーソーへ近づくと鞄から取り出した薄い板を左右の端にそれぞれ一枚ずつ取り付けた。
「よし! これで完成っと」
リッカのその声を聞いて、セバンたちがシーソーの周りへわらわらと集まってきた。セバンたちは初めて見るそれに興味津々だ。近づいてツンツンとつついたり、押してみたりと興味深げに観察している。
「おいっ! 何だそれは?」
制作者のリゼだけは、突然取りつけられた薄い板を怪訝そうに見ている。そんなリゼにリッカは得意満面の笑みを見せた。