新人魔女と師匠の間に起きたわずかな軋轢(3)
しかし、そんな素っ気ない態度でも了承してくれたことがリッカには分かる。リゼは話を終わらせたければ、さっさとこの場を立ち去っていたはずだ。リゼがそうしなかったことが答えだろう。
リゼの機嫌は相変わらず悪そうだけれど、その姿勢からはリッカに続きを話すように促しているようでもある。リッカはそんなリゼに「実は」と昨日考えついた作業場の改造を話し始めた。
リッカの話を聞き終えたリゼは呆れたように肩を竦める。リゼの反応に、やはり作業場の改造には無理があるだろうかとリッカは不安になる。しかしリゼはすぐに口を開いた。
「ここは君の作業場だ。好きにすればいいさ」
その口調は先ほどよりも幾分か柔らかいものだった。
「分かりました。では、お力を貸してくださるということですね」
リゼの返答にリッカはパッと顔を明るくする。それとは対照的にリゼの眉間には皺が寄る。
「何故そうなる? 君は私に何をさせるつもりだ?」
「セバンたちのために、シーソーと滑り台を作ってください」
リゼの疑問にリッカは満面の笑みを浮かべて答えた。そんなリッカの反応に、リゼは今度はあからさまに大きな溜め息を吐く。
「私は大工ではないのだが? 何故私がそのような物を作らねばならないのだ?」
リゼの返答はもっともなものだった。しかし、リッカは怯むことなくリゼに言い募る。
「だって、この作業場を建てたのはリゼさんじゃないですか。だから、改造もお願いしているのです。それに、セバンたちがリゼさんを怖がらなくなるためにも、リゼさんに彼らの遊具を設計して欲しいんです!」
リッカの力説にリゼは訳がわからないといった顔をする。しかし、リッカはリゼのその様子に気づかず話し続ける。
「常日頃使う物を作ってくれる人だって分かれば、彼らだってリゼさんの事を無闇に怖がることはなくなると思うんです」
リッカの無邪気な提案に、リゼはやっぱり分からないと頭を振る。
しかし、リゼが何も言わないのをいいことにリッカの暴走は止まらない。ここにあれを作れだの、ここにあれを置けだのと、身振り手振りを交えて次々と要望を口にする。その勢いにリゼが顔を引き攣らせていてもお構いなしだ。
しまいには「ちゃんと聞いてます?」と唇を尖らせる始末。リゼはそんなリッカに大きなため息を吐きつつ、重い腰を上げた。
「あぁ、もううるさい。やればいいのだろう。やれば」
「はい! お願いします」
リッカはリゼに向かって勢いよく頭を下げた。