新人魔女と師匠の間に起きたわずかな軋轢(1)
リッカが作業場へ行くと作業をしているはずのセバンたちの姿が見えない。代わりにリゼが専用の席で本を片手にお茶を飲んでいた。リッカはリゼに「おはようございます」と声をかけながら、セバンたちを探す。
「どうした?」
リッカの行動を不審に思ったリゼが声をかける。
「いえ、セバンたちはどこへ行ったのかと思って」
「あぁ。あいつらなら、あそこだ」
リゼはそう言って、部屋の隅を指し示す。リッカがその方向に視線を向けると、そこには六体のセバンが身を寄せ合っている姿があった。六体はまるで何かから身を守るかのように固まっている。
リッカはそんな光景を不思議そうに見ながらリゼへと問いかけた。
「あの子たち、どうかしたんですか?」
リッカの問いかけを受けたリゼは、読んでいた本をパタリと閉じる。そして、それをテーブルの上に置くとゆっくりと口を開いた。
「私がアレらを観察していたら、突然逃げ出し、あのザマだ。まったく失礼な奴らだ」
「あっ! またセバンたちをいじめていたんですかっ!」
リッカはリゼの言葉を聞いて憤慨した。しかし、そんなリッカに対してリゼは冷静に返す。
「失礼なことを言うな。私はただアレらがどんな反応をするか観察していただけだ」
「観察って……。セバンたちが怖がっているということは、リゼさんがセバンたちをいじめていたってことですよ。本当にもう……。今度セバンたちをいじめたら、作業場への出入りを禁止しますよ」
リッカの言葉にリゼはフンと鼻を鳴らす。
「あの程度のことで逃げ出すようなモノを作った君が悪い」
そう言って再び本を手に取った。
そんなリゼの態度に呆れつつ、リッカはセバンたちが身を寄せ合っている場所まで行くと、そっと膝をついた。
「大丈夫?」
リッカがそう問いかけると、セバンたちはコクリと頷いた。その反応にリッカは安堵する。
「本当にもういじめたりしないでくださいよ」
セバンたちの安全が確認できたところで、そう言いながらリゼを振り返るリッカに、リゼはやれやれといった風に肩を竦めた。
「全く。君はこちらへ来ないのだろうと思い、私が代わりに様子を見にきてやったというのに。とんだ無駄足だ」
リゼの言葉にリッカは目を丸くした。
「えっ? 何故、わたしが来ないと思ったのですか?」
リッカの問いにリゼは不機嫌そうに返す。
「昨日は天曜日で工房の仕事は休みだと言うのに、君は仕事へ来ていたのだろう? だから、その振替で今日は仕事を休むと思ったのだ」