新人魔女に新たな依頼(7)
空になったお盆を頭上に掲げたまま去っていくセバンの後ろ姿を目を細めて見送ったミーナは、セバンの姿が厨房へ消えるとお茶のカップを手に取り口へと運んだ。一口お茶を飲んでからホッと息を吐いたミーナがリッカへと向き直る。
「ラウル君は随分と可愛らしい接客係を雇ったのね。あの子たちはお店の売りになるわ。もともと人気のある店なのに、ますます人気が出るわね。これは、うちの店もうかうかしていられないわ」
ミーナは冗談めかした口調でそう言う。リッカはそんなミーナの言葉に首を傾げた。
「それでしたら、セバンを生み出す魔法陣をミーナさんのお店にもお貸ししましょうか?」
「え? 貸すって……。まさか、あの子たちはリッカちゃんが提供しているの?」
「提供……まぁ、そうですね。ラウルさんとセバンを貸し出す契約を結びました」
リッカがそう言うと、ミーナは驚いた顔をする。
「あ、ちなみにこのことは秘密でお願いしますね。ラウルさんはこの契約のことをギルド長から口止めされているんです。それもこれも全てはわたしの為なんですけど、そのわたしが自分で言いふらしたとあっては……」
リッカはそう言って唇に人差し指を当てる。ミーナはリッカの言いたいことを理解して笑みを浮かべた。そして「分かったわ」と頷く。
「それで、もしミーナさんのお店でもセバンの力を借りたいということでしたら、魔法陣をお貸ししましょうか? 貸すと言ってもギルドで契約をしてもらうことにはなるのですが」
「そうねぇ。あの子たちが居たら可愛いとは思うけど、うちの店はここみたいに人手が足りないということもないから。残念ながら、お手伝いは不要かなぁ」
リッカの申し出にミーナは残念そうに首を振った。しかし、すぐにスッとリッカを見つめる。
「それよりもリッカちゃん。今お時間ある?」
ミーナの突然の問いかけにリッカは首を傾げた。
「以前に話しそびれていた商談のお話をしてもいいかしら?」
「商談ですか? わたしでお役に立てることがあるなら……あ、でもわたし契約をするときはギルドを通すことになっているのです」
リッカの返事にミーナは頷く。そして「大丈夫よ」と笑った。
「もしも、リッカちゃんがこの話を受けてくれるということになったら、私からお義父さん……ギルド長へ契約の申し入れをするわ」
ギルドを通してでも自分としたい商談とは、一体どんな話なのだろうか。リッカはワクワクとしながらミーナの次なる言葉を待った。