新人魔女に新たな依頼(6)
「この店で宣伝をしながら、注文が入ったときにだけ作ることにしたんだ。まだ新しいものだからね。たくさん作っても皆さんに受け入れてもらえるかわからないからさ」
ラウルの言葉にリッカはホッと息を吐いた。どうやら氷精花の研究には多少の猶予がありそうだ。しかし、あの薬用スイーツの美味しさをリッカは既に知っている。街の人々に周知され、重宝され始めるのは時間の問題だろう。それまでに何とか栽培研究を形にしなければ。
リッカがそんなことを考えていると、店の裏口から「ラウル君、いるー?」と女性の声が響いてきた。ラウルはその声に「はいはい」と言いながら、リッカを残して厨房から出ていった。
しばらくして、ラウルはミーナを連れて戻ってきた。
「まぁ、リッカちゃん。こんにちは。さっき、お客さんに聞いたのよ。ラウル君のところに可愛いお手伝いさんが来たって。まさか、リッカちゃんのこと?」
挨拶もそこそこに勢いよくそう聞いてくるミーナにリッカは笑顔を向ける。
「ミーナさん、こんにちは。その情報は当たってますけど、残念ながらわたしのことではありません。この子たちです」
リッカはそう言いながら、台の上にいるセバンたちに視線をやる。ミーナもそれに倣うようにそちらへと視線を向けた。団扇を持って一生懸命にカスタードを冷ましている二体のセバンを見てミーナは「まぁ」と手を口に当てる。
「え? なにこの子たち」
ミーナは二体のセバンを見て目を見開く。そんな反応にリッカは胸を張ってセバンたちを紹介する。
「この子たちは『セバン』と言いまして、土人形の従者です。今日から、ラウルさんのお店をお手伝いすることになりました」
「え? 土人形の従者って……この子たち、ゴーレムなの?」
ミーナが驚いたようにセバンを凝視する。そんな視線に動じることもなく二体はふわりふわりとカスタードを冷ましている。
「せっかくですから、お二人は店の方でお話されては? 僕は午後からの仕込みがまだ残っているので、ちょっと失礼しますが」
ラウルにそう勧められてリッカとミーナは厨房を出た。二人が店のテーブル席に着くと、程なくして一体のセバンがお茶を運んできた。ラウルの指示だろうか。その姿を見てミーナが顔を綻ばせる。
「まぁ、可愛らしい。これは確かに街の噂になるわね」
ミーナはセバンからお茶を受け取った。セバンは小さいので、卓上にお茶を置くことができない。必然的に来客自らが受け取ることになる。