新人魔女の栽培研究(8)
「もしかして……」
リッカは目を凝らして、管の中をゆったりと移動する水泡を観察した。管の中にはいくつかの水疱が移動しており、あるものは葉先の方へ、あるものは花弁の先へ、またあるものは花軸を通って根っこの方へと流れていく。目線を元に戻して花弁を見れば、さらに溶け出した水滴が花芯へ向かって流れていき、花芯に吸い込まれた水滴は新たな水泡となって網目状の管の中を縦横無尽に動き回る。
「これだ!」
リッカが閃きの声を上げた時、リゼが戻ってきた。
「相変わらず君は騒がしいな」
背後からかけられた声に驚いて振り返ると、なにやら小さな壺を手にしたリゼと目があった。
「あ……すみません。でも、聞いてください。もしかしたら氷精花の栽培方法が分かったかもしれないんです」
興奮するリッカにリゼは面倒くさそうに顔を顰める。
「ほう」
そんな師の冷めた態度も気にせずにリッカは今しがた閃いたばかりの仮説の説明を始めた。
「氷精花は、自身を養分として次世代への繁殖をしているのではないでしょうか?」
リッカの言葉に、リゼは片眉を上げた。しかし、それ以上の反応は見せないので、リッカは構わず話を続ける。
「溶けて水滴になってしまったものは、花芯から個体の中へ取り込まれているようなのです。そしてそれは、網目状の管を通り、様々な場所へと運ばれているように見えます。根にも向かっているようなので、根から地中へしみ出すことで、次の世代を残しているのではないでしょうか? これです。この水疱」
トレーの上でどんどんと溶けてやせ細っていく氷精花をリッカは指さした。溶解が進んだことで、更に網目状の管の中を水泡が流れていく様子がはっきりと見えるようになっていた。
「あぁ、更に溶けちゃいましたね。でも、わたしの仮説通りなら、溶けることにも意味があるということになります。あれ? そういえば、花弁や葉に比べて軸はまだあまり溶けていないですね。……そうか。水泡を巡らせるためにも軸は必要だから、すぐには溶けないということでしょう。 溶けていくのにも順番がありそうですね」
リゼへ説明をしていたはずが、いつの間にかリッカの独り言になってしまっていた。リゼはそんなリッカの研究馬鹿な一面に呆れたように溜息を吐く。
「分かった分かった。もう君の高説はいい。仮説が立ったのならば、次は実際に試してみることだ」
リッカは夢中になって話していたことに気がつき、少し照れた様子で頬を赤らめた。