新人魔女の栽培研究(4)
気軽に栽培をすると言ってしまったが、植物を育てた経験のない者にとって氷精花の栽培は難題であることが分かった。
リッカは困ったように眉を顰める。言い出した手前中止を口にするわけにもいかないし、なにより、氷精花を供給するとラウルと契約してしまっているのだ。すぐに在庫が尽きることはないにしても、供給が滞ることはラウルに迷惑をかけることになる。それは避けたい。何か良い方法はないかとリッカは本を読み進める。
熟読した結果、初心者に育てられるかは別として、いくつかの条件さえクリアすれば栽培は可能なようだった。その条件とは次のようなものだ。
まず第一に、日当たりと風通しの良い場所であること。これはリッカも知っている。自生している氷精花を探す時もそういった場所を探すからだ。次に土質だが、これは水はけが良いことと書かれていた。そして最後に温度管理。これが一番難しいようだ。氷精花は非常に繊細な植物で、花開くまでは他の植物同様日当たりと風通しの良い場所を好むが、一度花開いてしまうと極端な寒さを好む。花開くのが雪の降る日であることからも、そのことは窺い知れる。その後の保存方法も特殊であり、氷精花の栽培が難しいと言われる所以はそういった環境を整えることの困難さにあるようだった。
リッカは本を読み終えた後、大きくため息をついた。栽培方法は分かったものの、その条件をクリアできなければ意味が無い。リッカは腕を組んで考え込んだ。
確かに温度管理がネックに思える。常に張り付いているわけにもいかないので、開花時期を見極めることができない。さらに問題なのは、氷精花の開花前の状態が分からないことだ。雪の日に開花することは知っていても、それ以外の日に氷精花らしきものを森で見かけたことはこれまでになかったし、氷精花がどのようにして成長して開花に至るのかについては、リッカは全く知らなかった。詳しいことは本を読んでも分からない。
「問題は、温度管理と成長方法か」
リッカが眉を寄せボソリと独り言ちた丁度その時、リゼが工房へと戻ってきた。足下にはグリムが付き従っている。リゼはリッカの顔を見るなり、ニヤリと笑う。
「どうやら収穫はあったようだな?」
リッカはリゼの言葉に苦笑いをしながら、首を振る。
「全くですよ……分かったことは、温度管理が重要だと言うことと、成長過程が全然分からないと言うことくらいですね」
「問題点が分かったのならば十分だ」