新人魔女、初めてのお仕事契約(1)
オークションの翌日、リッカはまたギルドへとやってきていた。今日はギルド長のオリバー立ち会いのもと、ラウルが経営するスイート・ミッションと専属契約を結ぶことになっていた。
リッカがギルド長室へ足を踏み入れると、青白い顔をしたラウルが既に待っていた。
「やあリッカちゃん、久しぶり。まさか君が手を挙げるとは思わなかったよ」
「ラウルさん。こんにちは。あの、ごめんなさい。わたし、まさか、たった銅貨十枚で競り落としてしまうとは思わなくて」
ラウルの顔を見た途端に、リッカは頭を下げた。
昨日のギルド主催のオークションのラストを飾ったのは、ラウルの店であるスイート・ミッションとの専属契約権だったのだが、競りのスタートが告げられても、それまでの競りのように活発に手が挙がることはなかった。ヒソヒソと周りの様子を伺いながらも、誰も買う気配を見せない。
困り果てた司会が何度か仕切り直しというように声をあげたが、ザワザワとした空気がホールを埋め尽くすばかりで、一向に買い手が現れない。そんな空気に痺れを切らしたリッカが、思わず「銅貨十枚!」と手を挙げてしまい、そしてそのまま専属契約権を競り落とすことになったのだった。
「いいんだ。気にしないで」
ラウルは慌てたように首を振る。
「実は買い手がつかないかもしれないと分かっていて出品したんだ」
ラウルは昨日のオークションの様子を思い出しているのか遠い目をしている。
「こちらこそごめんよ。リッカちゃんに気を使わせてしまって。今回の話は無かったことにしてもらって構わないよ。リッカちゃんは、薬屋でもなければ、薬草農家でもないのだから。もう少しあのスイーツを改良してから、また契約先を探すよ」
ラウルは申し訳なさそうな表情で頭を掻いた。
リッカは、昨日の会場の様子を思い返す。皆一様に眉を寄せて困った顔をしていたように思う。中には品定めをするような視線の人もいたけれど、ほとんどの人は興味なさそうだったり、不満げな顔をしていたように記憶している。そのような反応をする人たちを相手に再度売り込みをするとラウルは言うが、果たして本当に大丈夫だろうか。
リッカは執務机に静かに座っているオリバーへ視線を向けた。リッカの視線を捉えたギルド長は静かに微笑む。それから小さく首を振った。その仕草は「難しいだろう」と告げているようだった。
リッカはもう一度ラウルを見る。青白い顔に無理矢理笑みを貼り付けている。