新人魔女の初オークション(7)
「いやー、参ったな」
ジャックスは頭をかく。さすがに妻が金貨八〇〇枚もの買い物をするとは思っていなかったようで、その表情には焦りが見て取れた。
「店の金で足りるか?」
「ううん。全然」
「ええっ!? ダメじゃないですか ミーナさん、どうするんですか?」
「今からキャンセルとかできるのでしょうか?」
ジャックスとミーナの会話を聞いていたリッカとエルナは慌てた。まさか競り落としておいて、お金がないだなんて。リッカは不安げな表情でミーナを見たが、当の彼女はニコニコと微笑んでいる。エルナも、一体どうするつもりなのかと心配そうだ。
「でも大丈夫。ちゃんとお金は用意できるわ。ね、御父様」
ミーナはそう言ってギルド長に目配せする。ギルド長はフッと笑みを浮かべてミーナの言葉に答えた。
「ええ、もちろんです。後でお手続きすることに致しましょう」
二人の様子にリッカとエルナは首を傾げていたが、ジャックスは一人合点がいったように頷いた。
「ああ、なるほど。そう言うことか」
リッカはエルナと顔を見合わせる。一体どんな裏技があると言うのだろうか。
「どうしてお金が足りないのに大丈夫なんですか?」
大人たちが落ち着き払っているのを疑問に思ったエルナがミーナに尋ねた。
「うふふ、それはですね」
ミーナは悪戯っぽく微笑むと人差し指を唇の前に立てて小声で言った。
「ギルドからお金を借りるからです」
「は?」
「え?」
リッカとエルナは同時に声を上げる。まさか、そんな手があるとは思わなかったのだ。
「ギルドではそんな簡単にお金を貸してもらえるんですか?」
リッカが信じられないとばかりの表情でギルド長のオリバーに尋ねる。
「もちろん、誰にでもお金を貸付るという訳ではありませんが、ギルドでは貸付も行っておりますよ」
オリバーはリッカの疑問に答える。
「ギルドに加入されている方で、貸付に足る担保をお持ちの方に限りという条件はございますが」
「担保とは何ですか?」
リッカは首を傾げた。
「例えばお金や宝石などですね」
オリバーの言葉にリッカとエルナは再び顔を見合わせた。不思議そうな顔をする二人にオリバーは優しい笑みを浮かべる。
「担保として差し出された物は、供託と言う形でギルドがお預かりします。その上で、ギルドは供託物の価値の二倍の額のお金を貸付ます」
「二倍もの額ですか!?」
「だったら、借りた方が断然いいじゃないですか!?」
驚きの声を上げる二人に、ミーナが苦笑いを見せる。