新人魔女の初オークション(1)
いつもより少し遅く起床したリッカが自室で身支度を整えていると、部屋のドアがノックされた。ドアを開けると、そこに立っていたのはエルナだった。
「おはようございます。お姉様。どうかされましたか?」
「おはようございます、リッカさん。あの、今日は工房へは行かれないのでしょうか?」
工房へ行く時間を過ぎても自室から出て来ないリッカを心配してやって来たのだろう。
「ええ。今日はギルドの方で用事がありますので、工房はお休みしようと思っているのですが」
リッカがそう言うとエルナは俯き「そうですか……」と呟いた。
「何か御用でしたか?」
「あ、いえ! 私、今日は他の予定がなく工房へ行けそうでしたので、リッカさんとご一緒しようと思っていたのですが」
エルナは慌ててそう言う。どうやら今日は貴族教育という名のお稽古事や、お茶会の約束がないようだ。
しかし、工房とスヴァルト家を繋ぐ魔方陣はまだ設置されていない。そのため、エルナが工房へ行こうとすれば必然的に徒歩で向かうことになる。エルナの身を案じているリゼがそんなことを許すはずがない。そうかと言って、本日のリッカの予定を変更するわけにもいかず、エルナの希望は諦めてもらうしかなかった。リッカは申し訳なさそうに頭を下げる。
「そうでしたか。それは申し訳ありません」
「いえ、お気になさらずに」
リッカが謝ると、エルナは困ったように微笑んだ。所在なさげにドアの横に佇む義姉の気持ちを晴らしたいと、リッカはエルナを部屋の中へ招き入れ椅子に座らせた。
「あの、お姉様。わたし、今日は工房主としてギルド主催のオークションへ参加する予定なのですけれど、もしよろしければお姉様もギルドへご一緒しませんか?」
「え? 私がご一緒してもよろしいのですか?」
「大丈夫だと思います。工房主しか来てはいけないとは言われていませんし」
「では、お言葉に甘えてご一緒させて頂こうかしら。私、ギルドへは行ったことがありませんので、楽しみですわ」
エルナはにっこり微笑む。リッカも笑顔を返すと、急いで出かける支度を進める。手を動かしながら、エルナにギルドのことを簡単に説明した。エルナは興味津々と言った様子でリッカの話を聞いていた。
「それで、今日行われるオークションというのは、どのような催しなのですか?」
「詳しくは分からないのですが、ジャックスさんによると品評会のようなものだそうです」
エルナの問いかけに、リッカはそう答える。