新人魔女とギルド長(6)
リッカはオリバーの示した可能性に青ざめた。
「それは、つまり……」
「あくまで可能性の話です。ですが、可能性はゼロではありません」
「そんな……」
絶句したリッカの様子にオリバーは苦笑いを浮かべる。
「もちろん、そうならないように我々ギルドが目を光らせています。しかしそういう恐れがあるわけですので、工房の情報も、お嬢さんの情報もなるべく伏せておいた方がいいでしょうな」
「……はい。分かりました」
リッカは彼の言葉に納得したように頷いた。しかし、動揺が収まらない。無意識にギルドカードに触れてしまい、カード情報が再び流れ始めたのでリッカは慌てて指を離した。
「さて、登録も済んだことですし、お仕事についてのお話をいたしましょうか?」
「あ、はい! でも、工房のことを公に明かさないということですと、どのように仕事を請け負えばよいのか……」
リッカが困った顔をすると、オリバーはにっこり微笑んで言った。
「簡単なことです。我々ギルドが斡旋と仲介を行いましょう」
「え? そんなことをお願いしても良いのですか?」
リッカが驚いて尋ねると、オリバーは「もちろんです」と頷いた。
「それもギルドの仕事のうちですので。ただし、斡旋仲介料として、少しばかり頂くことになりますが」
オリバーの言葉にリッカは小さく頷く。
ギルドが斡旋と仲介を行う場合、報酬のうち二割を斡旋仲介料としてギルドに納めることになるらしい。ギルド介入により報酬の目減りを嫌う者は、ギルドを通さず個人間で取引を行うこともできる。しかしその際は、取引間で揉め事が起きてもギルドは関与しない。ギルドを通さず取引を行う場合は自己責任が原則だ。
リッカの場合、工房情報の開示を行えないのでギルドを通して仕事を得るしか方法がない。それに、もともと個人で仕事を請け負うには経験が足りない。今のマグノリア魔術工房にとって、ギルド長の提案は渡りに船であった。
しかしそうなると、一つ気になることがある。リッカは隣に座るジャックスをちらりと見た。リッカの懸念を感じ取ったジャックスが「問題ない」というように小さく頷く。
「斡旋仲介料の二割は、ギルド規定であらかじめ決められているものだ。ぼったくりではないから安心しろ」
ジャックスの言葉にリッカは頷き返し、再びオリバーへ視線を向ける。
「分かりました。お仕事を頂いた際はギルドへお支払いします」
リッカがそう言うと、オリバーは安心したように微笑んで頷いた。