新人魔女とギルド長(3)
リッカはオリバーの挨拶に笑顔で答えた。それから小首を傾げ、ジャックスの方を見る。
「あの、ランバートって……」
「ああ。そうか。……ギルド長は俺の親父だ」
ジャックスの短い紹介にリッカは驚いたように再びオリバーの方を見る。ニコニコと優しそうな笑みを浮かべるオリバーとジャックスを見比べているとジャックスが苦笑いを浮かべた。
「そうジロジロと見るな。やりづれぇだろ」
「す、すみません。でも……その、ビックリしてしまって」
リッカは気まずげに視線を彷徨わせる。大柄で冒険者のような風貌のジャックスと違い、オリバーは小柄でいかにも文官という雰囲気である。その二人が親子だと言われても実感がわかない。だが、よくよく見ると確かに目元などは似ているように思えなくもなかった。リッカがまじまじとオリバーを見ていると、オリバーが口を開く。
「ジャックス君と似ていないでしょう? 彼は妻似なんですよ」
「奥さん、ですか?」
リッカが尋ねるとオリバーは頷いてみせる。
「ええ。もうずいぶん昔に亡くなってしまいましたがね……。男手一つで育てたので、ジャックス君は少々無骨に育ってしまったようで」
そう笑うオリバーにリッカはなんと声を掛けて良いか分からず困った。思わず視線を彷徨わせると、オリバーがそんなリッカの様子を見て「ああ」と笑う。
「申し訳ありませんね。こんなおじさんたちの昔話など、若いお嬢さんにはつまらないでしょう。さて、工房主登録でしたね」
オリバーはそう言うと立ち上がった。
「こちらへどうぞ。手続きを行いましょう」
「あ、はい。よろしくお願いします」
リッカは慌てて笑顔を作ると、勧められた長椅子に腰をおろした。ジャックスもリッカの隣に腰を落ち着ける。ギルドに来てから大人しくしているフェンはリッカの足下で丸くなっていた。机を挟むようにして向かい側に座ったオリバーは、登録申請書と題された一枚の羊皮紙を差し出す。
「では、まずこちらに記入をお願いします」
リッカは内容を確認した。名前や年齢などの個人情報の他、工房名や仕事の内容などを記入する欄があるようだ。特に記入に困ることはなさそうな項目ばかりだったので、サラサラと必要事項を記入し、オリバーへ手渡した。
それを受け取ったオリバーはしばらく羊皮紙を見つめ、時折ふむと小さく頷き、しばらくして顔を上げた。
「工房名ですが、お嬢さんのお名前とは違うようですな。『マグノリア魔術工房』というのは?」