新人魔女とギルド長(2)
それどころか、ジャックスの指し示す建物はプレースメントセンターのそれだった。状況が飲みこめないリッカが思わずポカンと口を開けてジャックスを見上げていると、ジャックスがククッと笑った。
「プレースメントセンターと商業ギルドは同じ敷地内にあるんだ。というか、同じ建物だ」
ジャックスがそう言って指さす先には、プレースメントセンターの入り口と並んで、商業ギルドと看板を掲げた扉があった。
「な、なるほど……。そうだったんですね。全く気がつきませんでした」
リッカはばつが悪そうに笑う。すると、ジャックスはカラカラと笑った。
「別に気にすることはない。ギルドに用がなきゃ気づかなくて当然だ」
ジャックスはそう言ってリッカの頭をくしゃりと撫でると扉を開けて中に入って行く。リッカは気を取り直してその後へ続いた。
「あら? ジャックスさん、ギルドに顔を出すなんて珍しいですね。今日はどうされたのですか?」
受付の女性が驚いたように声を掛ける。
「ギルド登録をしたくてな。ギルド長はいるか?」
ジャックスがそう答えると女性は「あ、はい。ちょっとお待ちください」と言って奥の部屋へ入って行く。しばらくして戻って来ると女性はにこりと笑った。
「ギルド長、お会いになるそうです」
リッカはジャックスに続いて奥の部屋へと足を踏み入れる。そこには一人の男性が座っていた。五十代半ばくらいだろうか。白髪交じりの頭を掻いて、困ったように笑っている。
「やあ、ジャックス君。今日はどうしたのかな?」
男性の言葉にジャックスは肩を竦める。
「俺が世話した嬢ちゃんが工房主になるってんで連れてきた。まだ学校を出たばかりのひよっ子だから、これから気にかけてやってくれ」
男性はにこりと微笑むと頷いた。
「そうですか、そうですか。ジャックス君が私に頼み事ですか。珍しいこともあるものですね」
男性の言葉にジャックスはやや居心地が悪そうに頭を掻く。そんな様子を見ながらリッカは前へ出て丁寧に頭を下げた。
「初めてお目にかかります。プレースメントセンター所長のジャックスさんには大変お世話になっています。本日は工房主としてギルド登録させて頂きたく参りました」
その言葉を聞き、男性はにこりと微笑んだ。
「ご丁寧な挨拶ありがとうございます。私はこの商業ギルドでギルド長を務めています、オリバー・ランバートです。これからよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ、よろしくお願いいたします」