新人魔女のギルド加入(2)
ジャックスが言った通り、マグノリア魔術工房にはほとんど仕事の依頼は来ない。あっても王宮の仕事だが、そのほとんどはリゼが担っている。リッカの仕事は簡単な作業のみだ。それ以外は魔術や魔道具の研究をしているだけ。だがジャックスの言う通り、店を運営するということは多くの責任を伴う。そんな重圧の中でこれからは仕事をしなければならないのだ。リッカは真っ直ぐにジャックスの目を見つめ返すとはっきりとした口調で答える。
「はい。分かっています」
リッカの覚悟を受け止めたジャックスは、軽く肩を竦めてみせた。
「これからは、お姉様もいますし」
「お姉様っていうのは、嬢ちゃんと一緒にうちの店へ勉強に来ていたっていうお嬢様のことかい」
どうやら、ジャックスは妻であるミーナの話をよく聞いていたようだ。その存在を記憶から手繰り寄せてリッカに確認した。リッカが頷くのを見て、ジャックスは苦笑いを浮かべる。
「いやいや嬢ちゃん。いくら姉上が優秀だからって、御貴族様二人じゃ工房の運営は無理なんじゃないか」
ジャックスの言葉にリゼがふんと鼻を鳴らす。
「無理なものか。私もこれまで通りこの工房に籍を置く。これまでと何も変わらない」
リゼの言葉にジャックスは目を見開いた。
「おいおい。だったら、嬢ちゃんに工房を譲る必要はねえじゃねえか」
リゼはジャックスの言葉に、再び鼻を鳴らす。
「お前は相変わらず頭が固いな。私は皇太子になったのだぞ。これまでのようにこの工房に籠りっきりというわけにもいくまい」
「それはそうだが」
ジャックスの反応からは、彼がずっと以前からリゼの家柄について知っていたのだろうということが伺い知れた。
「ここが私の工房だと世間に知られて、有象無象が押し掛けてくることを避けたいのだ。だから、他の者の目をごまかすためにも工房主を彼女へ譲ると言っているのだ。彼女ならば知る者も少ないのでちょうどいいだろう」
リゼの言葉にジャックスはようやく納得がいったのか、大きくため息をついた。
「それならそうと初めからきちんと説明しろよ。話はわかった。それで、そのエルナさんと言うのが嬢ちゃんの姉上だな。これからは二人が主に工房で働き、お前は時々工房へ顔を出すということでいいのか?」
ジャックスの問いにリゼはゆるく頭を振る。
「いや。エルナさんもこちらへはたまにしか来ない。基本的には彼女一人で工房を運営することになる」
ジャックスは驚いたように目を剥いた。