新人魔女のギルド加入(1)
「どういうことだ?」
ジャックスが、驚いた顔で聞き返す。
「だから、工房は彼女に譲る」
面倒くさそうにそう言うリゼにジャックスは厳しい顔をした。
「だからその理由を説明しろ。嬢ちゃんはまだ仕事を始めたばかりなんだぞ。街の工房なら、見習いになりたての右も左も分からないひよっ子だ。そんな嬢ちゃんに工房を譲ってどうする? 当の嬢ちゃんだって困るだろうが」
ジャックスはリゼを睨み付ける。しかし、リゼはそんな視線を気にする様子もない。
「なんとかなるだろ」
平然と答えるリゼにジャックスはますます険しい顔をした。
「お前には嬢ちゃんを雇用した責任があるんだぞ。それを無責任に放り出すつもりか」
なかなか会話の噛み合わない二人の間に、お茶を持ってきたリッカが割って入る。
「ジャックスさん。今日はわざわざ工房まで来ていただいてすみません」
頭を下げるリッカにジャックスは慌てた。
「ああ! 嬢ちゃん、頭なんか下げなくていいんだ。どうせまたリゼの奴が勝手に言い出したことなんだろう」
リッカが頭を上げると、ジャックスは苦笑いを浮かべる。
工房主であるリゼが突然リッカへ工房を譲ると言い出したのは、昨日のことだった。
そして、連絡を受けたジャックスがこうして慌てて工房にやって来たのだ。さすがは就労斡旋所の所長である。就労者のためなら、不便な森の中でも駆けつけると言うわけだ。
リッカはジャックスへ椅子を勧めると、自分も席に着く。そして、事の次第を話し始めた。
一通り話を聞いたジャックスは腕を組んで唸る。リッカが工房で働き始めてからまだ一ヶ月ほどしか経っていない。そんな短期間で工房を譲るなど前代未聞だ。しかし、リゼは本気らしい。そのことが余計にジャックスの頭を悩ませた。しばらく考え込んだ後、ジャックスはようやく口を開いた。
「嬢ちゃんの素性については、こいつやミーナから聞いていたから、今更驚きはしないが、嬢ちゃんは本当にいいのか?」
ジャックスはリッカの目を真っ直ぐに見つめる。その真剣な表情に、リッカは小さく頷いた。だが、ジャックスはそれでも納得がいかないらしい。表情を厳しいものに変えて、さらに問いかける。
「そりゃ、この工房にはほとんど客は来ないだろうが、それでも工房があるということは一定の需要があるということだ。店ともなれば客の注文には完璧に応えていかなきゃならん。それは想像以上に難しい仕事だ」
リッカはジャックスの言葉に再び小さく頷く。