新人魔女が工房主⁇(8)
エルナの言葉にリゼはニコリと微笑む。
「さすがはエルナさんだ。大変素晴らしいことだと思います」
満足げな婚約者の解釈に気まずそうに頬を赤らめ俯いたエルナはハッとしたように鍋の火を止めた。話に夢中になっている間に鍋の中のスープは煮立ってしまっていたようだ。エルナは慌ててスープを皿へよそい始めた。
「お姉様。ごめんなさい。お忙しい時に声をかけてしまって」
リッカは申し訳なさそうに謝る。そんな義妹にエルナは微笑む。
「少し煮詰まってしまったようですけど、大丈夫ですよ。スープを並べるのをお手伝いいただけますか?」
そう言ってスープをよそった皿をリッカへ手渡す。リッカは受け取ると、テーブルに並べた。テーブルには美味しそうな朝食が次々と並ぶ。
「エルナさんの料理を頂くのは随分と久しぶりですね」
席に着いたリゼは嬉しそうに微笑む。そうは言ってもたった二週間ほど間が空いただけだ。リッカは嬉しそうに顔を綻ばせるリゼに苦笑いをする。相変わらずリゼのエルナへの愛は重い。だが、当のエルナが嫌がっているわけではないので、これはこれで良いのだろう。
そんなことを思いながらリッカも席に着く。自宅で軽く食事はしてきたが、小腹が空いたので、一緒に頂くことにする。
「ところで、先ほどの話の続きなのですが」
リゼはスープを口に運ぶエルナへ声をかける。エルナは手を止めてリゼの方へ顔を向けた。
「やはり、エルナさんが店を運営すると言うのは現実的ではないと思うのです」
「ええ。ですから」
エルナが慌てて説明しようとするのを遮り、リゼは言葉を重ねる。
「そこで提案なのですが、彼女に雇われると言うのはいかがでしょう? もちろんエルナさんがお嫌でなければの話ですが」
リゼはそう言って真面目くさった顔でリッカを指し示す。
「……はい?」
「……ええ!?」
唐突な提案にエルナは首を傾げ、リッカは驚いてスプーンを取り落としてしまった。そんな二人を他所にリゼはにこやかに微笑むと理由を話し始めた。
「この工房とスヴァルト家、そして王宮をそれぞれ移動用魔法陣で繋げば、移動時の危険はなくなりますからいつでも好きな時に移動ができます」
淡々と説明するリゼをリッカは慌てて止めた。
「あ、あの! それは良い移動手段だと思うのですが、それよりも、何故わたしがお姉様を雇うと言う話になるのですか?」
リッカのもっともな質問にリゼはさも当然と言う顔で言い放つ。
「私がこの工房を君に譲るからだ」