新人魔女が工房主⁇(7)
「エルナさん。店をやりたいというのは本当なのですか?」
リッカを伴い食堂へ姿を現したリゼは、開口一番にエルナへ問いかけた。突然のリゼの問いに、スープの味見をしていたエルナは驚きに目を見張る。しかしすぐにニコリと微笑んだ。
「そうですね。そういったことができるのであればやってみたいという気持ちはありますが、現実的に難しいということも承知しておりますので。どうぞお気遣いなく」
エルナの言葉にリゼは頷く。
「そうですね。皇太子妃には公務もありますし、身の安全のことを考えると他の者が簡単に出入りできる場所は危険以外の何ものでもありません。正直、店を経営すると言うことは現実的ではないでしょう。ですが、もし本当に店をやりたいとお思いなら、安全が確保されるよう私が対策を講じましょう」
その言葉に、エルナは嬉しそうに顔を綻ばせる。しかし、すぐにその顔を曇らせた。
「ですが……ネージュ様にお手間を取らせるような真似は……」
エルナの言葉にリゼは少し困ったように微笑む。
「お気になさらないでください。私が好きでやることですので」
「そうですよ。お義姉様のご希望を叶えるため、わたしも全力で協力いたします!」
リッカも加わり、エルナを励ます。
「ありがとうございます。ですが……」
二人の勢いに押されエルナが一歩後ずさる。そんな義姉を安心させようとリッカは一歩踏み出し、その両手をグッと握る。
「大丈夫です! お義姉様」
戸惑うような瞳を向けてくるエルナの目をしっかりと見つめ、リッカは大きく頷いた。
「しかし、店と言ってもいろいろあります。エルナさんはどのような店を開きたいのですか?」
リゼが尋ねると、エルナは恥ずかしそうに顔を赤らめる。そして、モジモジとしながら口を開いた。
「あの……私、皆様のお役に立てることならば何でもやりたいと思っているのです。皆様のお話もたくさん聞きたいですし。ですが、どんな店がやりたいのかと問われましても……」
エルナは首を傾げる。リッカも、エルナがどんな店を開きたいのかは気になるところだ。だが、本人が思いつかないのであればどうしようもない。
しかし、リゼはなるほどと頷く。
「それは素晴らしいですね。皇太子妃として民の声に耳を傾けようということですか」
その言葉にエルナは驚いたように目を丸くし、慌てて首を横に振る。
「いいえ。そこまで大層な理由ではなく、ただ皆様のお役に立てることができればと思っただけなのです」