新人魔女が工房主⁇(6)
そう言ってエルナはパタパタと工房の中へ入って行く。
「あ、お姉様……」
リッカが止める間もなくエルナは工房内へ姿を消した。リゼは小さくため息をつくとリッカへと向き直る。
「先日のことでわかっているとは思うが、王族になるということは、今までとは比べ物にならないくらい危険が付き纏う。警戒してくれ」
リッカはコクリと首肯する。
「エルナさんがここへ頻繁に来るというのならば、工房の周りに対人結界を張る必要があるな」
「結界?」
リッカが聞き返すと、リゼは頷く。
「ああ。これまでも魔獣除けくらいはしていたのだが、対人用の結界を張り巡らせる」
「そんなことをして良いのですか?」
「何か問題があるか?」
リッカの問いにリゼは不思議そうに首を傾げた。そんな工房主にリッカも首を傾げる。
「だって、結界が張られていては、誰もこの工房へ来られないではないですか」
その指摘にリゼは不可解そうに眉を寄せた。
「別に構わないのではないか? これまでも客などほとんど来たことがない」
「それはそうかもしれませんが……」
リッカは返答に窮する。確かにマグノリア魔術工房に来客など滅多にない。それどころか、リッカが工房へ勤めるようになってからやって来た客は、プレースメントセンター所長のジャックスと、マリアンヌの使いであったエルナだけだった。
つまり、結界を張ろうと張るまいと、工房へ客が訪ねて来ることなどなかった。リッカもそういった環境を好ましく思っている節はある。だが、これから提案しようとしていることは、そんな環境下でも問題なく行えるだろうか。
考え込んでしまったリッカにリゼは怪訝そうな顔を向ける。
「何だ? 言いたいことがあるのなら言ってみろ」
「実は……」
リッカは道中に義姉と交わした会話を語る。
「なるほどな。それで、結界を張るなと」
リッカは頷いた。
「あの……お姉様の希望を叶えて差し上げることはやはり難しいでしょうか?」
リッカの言葉にリゼも難しい顔をする。
「……そうだな」
しばらく考え込んだ後、リゼは口を開いた。
「店をやりたいという思いがあるのなら、それを叶えて差し上げねば」
「本当ですか!」
リッカが嬉しそうに声を上げるとリゼは頷く。
「ああ。だが、エルナさんの身の安全が第一だ。それは絶対だ」
「ええ! もちろんです!」
「まずは、エルナさんの希望を聞いてみようではないか」
工房からは美味しそうな匂いが漂い始めた。厨房では朝食の準備が着々と進んでいるようだ。