新人魔女が工房主⁇(3)
「今度、リゼさんに相談されてみてはいかがでしょうか? お姉様の頼みなら喜んで許可を頂けると思いますよ」
リッカの言葉にエルナは苦笑いをする。
「それはどうでしょう?」
「え?」
「皇太子の婚約者がそのようなこと、許されるかしら?」
そんなエルナの言葉にリッカはニヤリと笑う。
「そんな事、今更ではありませんか」
エルナの姿に意味ありげに視線を送る。
「使用人の格好をした皇太子妃がありなら、店を経営するくらいなんでもありませんよ、きっと」
リッカの言葉にエルナは一瞬、きょとんとした顔をするが、すぐにクスクスと笑い出した。
「それもそうですね」
そんな言葉を交わしているうちに二人は市街地を抜け、森の入り口に辿り着く。そこでエルナが足を止めたので、リッカも立ち止まる。
「お姉様。どうされたのです?」
急に立ち止まったエルナにリッカは声をかけた。エルナはポカリと開いた森の入口と義妹の顔を見比べて困り顔を見せる。その目には不安の色が見え隠れしていた。
リッカもエルナの視線を辿り、暗い森の中へと目を凝らす。まだ夜が開け始めたばかりの弱い光は、森の奥までは届いていないようだ。
薄暗い森を見つめながらリッカはエルナが何を不安に思っているのか、その心情を推し量る。そして、その答えに行き着くとすぐに口を開いた。
「森が怖いですか?」
リッカの言葉にエルナは小さく頷いた。だがそれからすぐに首を横に振る。リッカはそんなエルナの態度に小さく微笑んだ。これは、怖くないと否定しているのではない。怖いのだろうけれど、大丈夫だという意思表示だ。そう受け取ったリッカはエルナの手を取り森の中へ足を踏み入れる。
「森へ入るのは初めてでしたか?」
リッカの手をしっかりと握るエルナは小さく首を振る。
「いいえ。そんなことは。マリアンヌ様のお使いで工房へは何度か伺っていましたから。ですが、いつもはもう少し明るかったので」
リッカはなるほどと頷く。日中は森にも陽が入る。いつも明るい時間に森を通っていたのなら、薄暗い中を進むのが不安になるのも無理はないだろう。
「大丈夫ですよ。わたしがついていますから」
リッカの言葉にエルナは微笑むと、しっかりと手を握り返したのだった。
「そうだ。ボディーガードをフェンにお願いしましょうか」
リッカは少しでもエルナの不安を拭えればと明るめの声を出し、影から使い魔を呼び出した。
手を繋いだ二人の前をフェンがふわふわの尻尾を振りながら歩く。