新人魔女が工房主⁇(2)
確かに、これまでのように働くのであれば、動きやすく着慣れた服の方がいいのかもしれない。しかし、いずれ皇太子妃となる人が使用人と同じものを身に付けると言うのはどうなのだろうか。リッカは思案する。そして、やはり良くはないだろうと判断したリッカは、エルナに他に服がないのかと尋ねてみた。リッカの問いにエルナは顔を曇らせる。
「ええ。私もこのような格好が宜しくないのは承知しているのですけれど、これ以外の服はこちらへ来るときにすべて処分してくるようにとお義母様から言われていたので、ちょうど良い服が手持ちにないのです」
エルナの困り顔にリッカはなるほどと頷いた。工房までは森の中を歩く。貴族令嬢のドレスでは歩きづらいだろう。自分の服を貸そうかとも考えたが、リッカの私服は魔女服ばかりだし、自身より年上のエルナにはサイズが合わないかもしれない。考えあぐねた結果、リッカは了承の意をエルナに伝えることにした。
「分かりました。では、とりあえずそれで出かけましょう。まだ外は暗いですし、誰かに見とがめられる事もないでしょうから」
リッカの言葉にエルナは微笑む。
だが、誰が見ているともわからない。念のため、エルナにはマントを羽織ってもらった。
エルナとリッカは日の出前の薄暗さの中を歩き始める。途中、街の大通りを抜けてラウルの店の前を通る。辺りには甘く香ばしい匂いが漂っていた。店の奥の方がほのかに明るいので、店主のラウルはすでに開店準備に精を出しているのだろう。
「今日もいい匂いですね」
エルナも気が付いたようで、店の方へ視線を送っている。鼻を引くつかせている義姉に、リッカはクスリと笑みをこぼした。
「お姉様はお料理も上手だし、お菓子作りもとてもお上手ですけど、ラウルさんのようにお店をやろうと思ったことはないのですか?」
義妹の問いにエルナは首を傾げる。
「どうでしょうか? 考えたこともありませんでしたけれど」
そう言って少し考え込むような仕草をする。だが、すぐにニッコリと笑顔になった。
「でも、ラウルさんのお店でお手伝いをさせて頂いたときは楽しかったです。お店には色んなお客様がいらっしゃるでしょう? 皆さんのお話を聞いているだけでも楽しいし、喜んで貰えるのは嬉しいですから」
エルナの言葉にリッカは頷く。確かにエルナは他人が喜ぶことが好きなようだ。店で働くことに興味がありそうだし、好きならば向いているのではないかとリッカは思う。