新人魔女が工房主⁇(1)
新人魔女のリッカは夜も明けきらぬうちに目を覚ます。この時間に起きるのは随分と久しぶりだ。今日はどんな一日になるだろうか。そんな期待に胸を膨らませながら、リッカはベッドから起き上がった。そして、手早く着替えを済ませる。まだ薄暗い部屋の中で身支度を整えたリッカは、そっと部屋を後にした。
「おはようございます、リッカさん」
すでにエルナが起きてきていた。リッカは思わず目を丸くする。
「お姉様、随分とお早いですね」
リッカの言葉にエルナは首を傾げる。
「ふふ。リッカさんこそ。いつもこのように早くからお支度をされていたのですね」
「ええ。早く工房へ行きたいので」
リッカの返答にエルナは微笑む。そんなエルナをリッカは不思議そうにマジマジと見つめ返す。
「あの……ところでお姉様? その恰好はどうされたのですか?」
以前のように簡素な使用人服を身に付けたエルナは「これですか?」と、なんでもない風にスカートの裾をつまんだ。
「私もこれまで通り、リッカさんと一緒に工房のお手伝いをさせて頂こうと思いまして」
エルナの答えにリッカは目をパチクリとさせる。
「え?」
「あら、駄目でしょうか?」
「いやっ……駄目ということはないと思いますけど……」
口籠りながらリッカは考える。世間一般的にみれば、皇太子の婚約者が使用人のような仕事をすることなどありえない。
「でも、その……」
口籠るリッカにエルナは微笑みかける。
「お義父様にも承諾は頂いておりますよ」
その言葉にリッカは思わず声を上げた。
「お父様に?」
「ええ。マリアンヌ陛下から婚約のお許しを頂けたので、一応、貴族教育は終了ということになりました。と言っても、舞踏のお稽古や社交の訓練は欠かさないという約束にはなっております。ですので、リッカさんのように毎日工房へお手伝いに行けるかは分かりませんが」
エルナはにっこりと笑った。リッカは驚きのあまり、言葉を失ってしまう。
まさかエルナが父の了解までとっていたとは。「皇太子の婚約者」としての自覚はないのだろうか。そう思ったものの、リッカはすぐさま思い直す。リッカが工房へ行けることを楽しみに思うように、義姉もリゼのもとへ行くことを楽しみにしているのだろう。
しかしと、そこで眉を顰める。
「ですがお姉様。その恰好はどうかと思います」
「え? そうかしら。この服、動きやすくてとても仕事がしやすいのですけれど」
エルナは自らが身に付けている侍女服に視線を落とす。