新人魔女と過保護な両親(2)
「君が責任を感じることではない。君も被害者なのだから。責任を問われるべきは王宮の警護であり、騒ぎを起こした貴族どもだ」
「でも……」
エルナは納得のいかない様子で口籠る。そんなエルナを慰めるように、イドラが優しくその頭を撫でた。
「だが、君もわかったであろう。王宮は他者の思惑が入り乱れ、危険に溢れている。君はもう少し危機感を持った方が良いかもしれない」
イドラの言葉にエルナはコクリと頷く。
「今回はリッカが君を守ったが、いつもそういう訳にはいくまい。君に万が一のことがあれば皇太子様が黙ってはいないだろうが、天下の大賢者を怒らせたとなれば、この国など簡単に滅んでしまうだろう。それは君も困るのではないかね?」
最後はイドラなりの軽口のつもりだったのだろう。その口元はうっすらと緩められている。しかしエルナは真剣そのものでコクリと頷いた。イドラもすぐにいつものしかめっ面に戻ると「これだけは覚えておきなさい」と言う。
「君は力を持たない。実際の実力然り、権力然りだ。我がスヴァルト家の後ろ盾があるとは言え、そんなものは自身の身を守る術としてはとても弱い。君は、自らを守る術を得なければならない」
「はい……」
エルナは神妙な顔で頷いた。
「王宮で信頼出来る者を探しなさい。全幅の信頼を寄せられる者を。信頼のおける人材は力だ。それが今の君に出来る最大の身を守る術であり、力を得る方法だ」
「承知しました」
義父の忠告にエルナは頷いた。そして、改めてリッカへ向き直る。
「リッカさん、この度は本当にありがとうございました。私、少々甘かったのかもしれません。これからはもっとしっかりいたします」
深々と頭を下げる義姉に、リッカは苦笑を漏らす。
「気にしないでください。わたしが勝手に動いただけですので。それにほら、もう傷も完治していますから」
王宮の大広間で肩にナイフを受けたリッカだったが、リゼの治癒魔法で今はその傷もすっかり癒えていた。ナイフに塗られていた毒は単に睡眠を促すものだったらしい。ただ、大型魔獣も瞬時に眠らせるほどの強力なものだったために、リッカに抗う術はなかった。しかし、それもリゼによってしっかりと解毒されている。
エルナはまだ後悔がぬぐえないのか沈んだ顔で俯いたままである。そんなエルナをリッカはじっと見つめる。
「それよりも、お姉様。わたしが作った髪飾りの性能がいかにすごかったのかをお父様とお母様に説明しましょう」