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新人魔女と襲撃者(8)

 一部の貴族が不躾な視線をエルナに送っていたが、国王はそれらの不穏な視線には気づいていない様子で話を続ける。リッカは注意深く周囲を見回す。何人かの者が互いに目配せをしているのが見えた。外部の者と連絡でも取っているのか、顔を伏せ小さく口を動かすようなそぶりをする者もいる。


「フェン、警戒して」


 リッカは自身の影に向かってそう小声で囁く。返事をするかのように影が一瞬揺らいだ。その間にもマリアンヌの話は続く。


「此度は我の即位と立太子の祝いの場であるが、ここでもう一つ、発表することがある」


 国王がリゼへ視線を移す。リゼはエルナの手を取ると一歩前へ進み出た。


「皇太子リゼラルブ・マグノリアと、ここにいるエルナ・スヴァルト嬢は此度婚約をした。婚姻の儀については良き日に執り行う予定である」


 壇上の義姉はぎこちないながらもなんとか笑みを浮かべ、軽く膝を折って貴族たちへ挨拶の意を示す。数秒の静寂の後、盛大な拍手が沸き起こった。国王は満足げに頷くと、エルナへ降壇を促す。エルナはもう一度貴族たちへ小さく礼をして、ゆっくりと壇上を降り始めた。だが、数歩も行かぬうちにエルナが不自然に動きを止めた。


「お姉様?」


 エルナの異変にリッカは眉を寄せる。しかし、すぐにその異変の原因に気がつきハッと息を呑む。エルナに向かって風の刃らしき魔法が放たれていた。初撃にエルナの髪飾りが反応し、エルナと風の刃の間に見えない壁を作ったようだった。立て続けに放たれた魔法がいくつもエルナへ向かって飛んでいく。髪飾りの石の数しかエルナを守る魔法はない。リッカは咄嗟にエルナへ向かって走り出した。


「フェン!」


 リッカが鋭く叫ぶと同時に影から飛び出した使い魔が、魔法を放った貴族目掛けて飛び掛かる。突然の事態に広間には悲鳴が巻き起った。国王も動揺しているようで一歩後退った。そんな国王をリゼが防御魔法で守る。


 リッカがエルナのもとに駆け寄ったその時、キラリと光るものが視界に入った。咄嗟にエルナの腕を引く。それと同時に左肩に激痛が走った。リッカが苦痛に顔を歪めつつ肩を見ると、ナイフが刺さっていた。途端に体から力が抜けた。どうやら毒を食らったようだ。


 どんどん体から力が抜けていく。あっという間に体が言うことをきかなくなる。それでもリッカは相手を睨みつけると、拘束魔法を放った。


「リッカさん!」


 毒で朦朧とする意識の中で、エルナの悲痛な叫びが聞こえた気がした。

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