新人魔女と襲撃者(7)
エルナはリッカの位置から髪飾りが見えるように少し体の向きを変える。
「リッカさんに作って頂いたお守りですもの。大切につけておりますよ」
事の重大さに気がついていないらしいエルナは、クスクスと笑う。そんなエルナにリッカは固い笑みを見せると、義姉の手を取り広間の前方へズンズンと歩き出した。突然のことにエルナは目を丸くする。
「どうされたのです? なるべく隅にいたほうが目立たなくてよろしいのではありませんか?」
そんな義姉にリッカは首を横に振る。
「なるべく広いところにいた方が万が一の時に動きやすいですから。それに、リゼさんや陛下のお側にいればあるいは……」
リッカの緊迫した言葉にエルナは一瞬目をパチパチと瞬かせたあと、すぐにいつものように笑みを浮かべた。やはりこの後に起こることの予想はついていないらしい。
エルナを守るために最善策を考えねば。リッカは周囲を警戒しつつ、前進する。リッカたちの動きに合わせて周りの貴族たちの視線が突き刺さるように追ってくるのがわかったが、リッカは気にすることもなくまっすぐ進む。広間の前方には数段高くなった場所があり、国王と皇太子のために椅子が用意されていた。そこまではまだ少し距離がある。多くの貴族でごった返す広間を、リッカはエルナの手を引いて進んでいく。
あと数メートル進めば檀上付近に到達するというところまで進んだ時、ざわりと会場の空気が揺れた。同時に後ろから大きな歓声と拍手が起こる。ハッとして振り返ると、真っ白なドレスを身に纏ったマリアンヌがリゼを伴って大広間に入場したところだった。国王マリアンヌが軽く右手を挙げると、その瞬間、広間が静かになる。貴族たちは自然と左右に分かれ広間の両脇へ控える形をとると一斉に頭を垂れた。その間を悠然と歩き壇上へ向かっていた新国王と皇太子はリッカたちの姿を認めると、そのまま歩みを進めリッカたちの前まで来たところで足を止める。
「ついて来なさい」
それはエルナに向けられた言葉だった。新国王はそれだけ言うと、また歩き始める。リゼも無言でそれに続く。エルナは少しだけ表情を固くしてリッカを見たが、リッカが小さく頷くのを見て慌てて新国王の後を追った。
エルナが壇上に上がると小さなどよめきが起こる。それを国王は右手を挙げることで静めた。
「無事、戴冠式と立太子礼が済んだことに感謝する」
国王はそう言うと、大広間を見渡すようにゆっくりと視線を巡らせる。