新人魔女と襲撃者(4)
「昨夜はゆっくりと寝られましたか?」
「はい」
そう言うとエルナは小さく微笑む。しかし、義姉のしなやかな手が何度も髪を触る。まるで髪留めがそこにある事を確認するかのようなその仕草からは、言葉とは裏腹に義姉の落ち着かない様子が窺い知れた。
「あの……」
なんと声をかければ良いだろうかと迷いながらリッカが口を開いたとき、それまでクッキーに夢中で静かにしていたフェンがエルナの足に纏わりついた。
「ちょ、ちょっとフェン」
突然の使い魔の行動にリッカは目を丸くする。義姉も驚いたように足元へ視線をやる。しかし、フェンは我関せずとしきりにエルナの足に頭を摺り寄せた。そんな行動にエルナの顔が次第に綻ぶ。
「まぁ、フェンちゃん。あなたも心配してくれているの? 大丈夫ですよ。あなたとリッカさんのおかげで大事には至りませんでしたから」
エルナがそう言ってフェンを優しく撫でてあげると、フェンは気持ちよさそうに目を細めた。そんなエルナの動向を隣で静かに見守っていたリゼが小さく息を吐くのが分かった。リッカは、天下の大賢者でもさすがに気を張っているのだなと思った。
「あの、もしお二人に時間があるなら少しここでお茶を飲んでいかれませんか? この部屋からの眺めはとても素晴らしくて、わたし、バルコニーに出てお茶を頂いていたところだったのです」
リッカの緊張感のない誘いにリゼとエルナは思わず顔を見合わせる。だがすぐに二人の肩から力が抜ける。二人は少し緊張を解いたようだった。
「全く君は。昨日あんなことがあったのに、呑気なものだ。……しかし、頂くとしよう。ねぇ、エルナさん」
呆れたようにそう言うリゼの口元は、言葉とは裏腹に少し緩んでいる。リゼの言葉にエルナも「えぇ」と同意した。
リッカたちがバルコニーへ出ると、程なくしてメイドが三人分の新しいお茶とお菓子を運んできた。
「素敵な眺めですね」
眼下に広がる景色を眺めていたエルナが感嘆の声を上げる。
「お姉様も昨夜は王宮にお泊まりになられたのでしょう? お部屋から見える景色はこちらとは違いましたか?」
リゼと共にエルナが姿を見せたことから、義姉も昨夜は王宮に留まったのだろうと思っていたリッカだったが、エルナの反応に首を傾げる。
エルナは少し表情を固くしてポツリと呟くように言った。
「私もお部屋をご用意いただいたので、そちらに泊まらせていただきましたよ。でも、その……バルコニーには出ていないものですから」